高齢化が進むとともに社会的な課題となっているのが「高齢者の財産をどのように管理するか」という問題だ。認知症が進めば金融資産は凍結されかねないが、2020年度の時点で認知症患者が保有する金融資産はすでに150兆円を超えるという試算もある。そうした状況に対応するため、財産管理などを第三者に任せる様々な「契約」が注目を集めているが、使い方を誤るとトラブルにつながることもある。
認知症によって判断能力が低下した際に備える方法として「成年後見制度」が注目されているが、認知機能が大きく衰える前に使える制度が「財産管理(委任)契約」だ。1級ファイナンシャル・プラニング技能士、社会保険労務士、相続診断士などの資格を持ち、『トラブル事例で学ぶ 失敗しない相続対策』などの著書がある吉澤相続事務所代表の吉澤諭氏はこう説明する。
「本人がまだ元気なうちから使えるのが財産管理契約で、年老いた母親が出歩くのが難しくなったら長男が預金の出し入れなどを管理する、といったかたちで使えます。母親の判断能力が低下したら、成年後見制度のなかの任意後見契約に切り替えていく、といった使い方ができますが、具体的にどこまでを委任するかなどは、実務経験が豊富な専門家に相談して利用するのがいいでしょう」
うまく活用すれば独り身の老親をサポートできる制度だが、利用したにもかかわらず親の死後の相続が骨肉の争いに発展してしまうこともあるのだという。吉澤氏が続ける。
「私の知るケースでは、母親が長女と『財産管理契約』を結んでいたのですが、母親が亡くなってから次女が“長女が財産を勝手に使い込んだ”とクレームをつけてきたことがありました。父親が亡くなった時は預金が3000万円あったのに、それが1000万円しか残っていないのは長女が私的に流用したからだ、と次女が弁護士を連れて抗議してきたのです」