被相続人や相続人など相続に関わる人が認知症になると、重要な法律行為が認められなくなる。親の財産を守るためには、第三者が本人に代わり財産管理を行なう成年後見制度や、認知症になる前に信頼できる人に財産を託して譲渡する家族信託などの制度を活用したい。
ただし、そもそも家族仲が悪い場合、これらの制度を悪用して「親を囲い込んでしまう」ケースがあるという。南青山M’s法律会計事務所代表の眞鍋淳也弁護士が解説する。
「成年後見制度を使い、長男が老親を囲い込もうと企てた不仲な兄弟のケースがありました。まず長男が父親を介護施設に入れ、弟との面会を拒否するように仕向けながら、自らに有利な遺言書を作らせました。そのうえで成年後見の申し立てをしたのです。
この兄は、自分が認知症である父に遺言書を書かせたのと同様の手口で、弟が遺言書を“上書き”するのを恐れたわけです。裁判所で法定後見が認められれば、それによって認知症と公的に認められたことになります。そうなると、その後に弟が遺言書を作らせたとしても無効になるのです」
このケースでは、次男側が父の医療記録を遡ったところ、遺言書を作る前にすでに認知症だったことを証明する診断書が発見されたため、長男が作らせた遺言書は無効となったという。眞鍋氏は、「同様の相談が寄せられており、こうした事例は少なくない」と言う。
一方、家族信託においても「親の囲い込み」に利用される事例がある。遠藤家族信託法律事務所代表の遠藤英嗣弁護士が解説する。
「成年後見制度と同様に、子供のうち1人が親を囲い込んで多くの財産について家族信託で契約を結ぶやり口もある。よくあるのが、孫を最終的な財産の帰属者にするケース。『孫のため』という言葉に弱い高齢者は多いから、つい契約してしまう。最終的に財産の権利が特定の孫に移転するような契約内容にすることで、子供のうち1人が信託の権利を独占し、他の兄弟が財産を受け継げないようにしてしまうのです」