遺伝子組み換え(GM)食品やゲノム編集食品など、新たなテクノロジーから生み出される食品が、広く市場に出回るようになっている。肉の代わりに大豆を使った「人工肉」もあれば、動物を飼育せず、代用の大豆さえ使わずに、肉を「作り出す」技術もすでに存在している。動物から採取した細胞を培養液のなかで増やして食用にする「培養肉」がそれだ。
人工肉同様、動物を殺さないうえ大豆の栽培も必要ないため、人工肉以上に温暖化防止につながるとされている。食品問題評論家の垣田達哉さんが解説する。
「室内で、幹細胞から食肉になるまで培養されるため『ラボミート』とも呼ばれます。すでにシンガポールでは鶏肉の培養肉が流通しており、国が援助したりメーカーが協賛しているので価格もそれほど高くありません。アメリカも“安全性に問題はない”としていますが、牛肉のラボミートでステーキを作るとなるとコストが高くなるので、まだ販売には至っていません」
2013年に行われた世界初の試食会で出された、培養肉を使ったハンバーガーの生産コストは開発費も含めて、なんと32万5000ドル。しかし、アメリカのグッドフード研究所(GFI)は2030年までに1kg6.43ドルまで下げられると予測している。マイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツ氏は、このGFIの大口出資者だ。
日本でも日清食品と東京大学が共同研究を行っており、2022年3月、国内初の「食べられる培養肉」の作製に成功し、試食会を開催した。だが、フランス在住のジャーナリスト・羽生のり子さんは培養肉の問題点をこう指摘する。
「研究室で開発する培養肉は、成長ホルモンを加えなければ肉になりません。しかし、EUではそもそも家畜に成長ホルモンを投与することを禁止しています。培養肉は家畜ではないから大丈夫というわけにはいかないはずです。また、牛肉を培養するには牛の胎児のホルモンが必要で、フランスの研究者は“動物を殺さないで作れる肉というのはウソ”と指摘しています」
培養が進んでいるのは肉だけではない。さまざまな魚の培養も始まっている。アメリカでは「培養サーモン」がすでに開発され、日本でも回転寿司「スシロー」を展開するフード&ライフカンパニーズが「培養トロ」を開発中だ。
さらにアメリカでは、細胞を培養した人工母乳の製造もすでに成功しているという。