巣ごもりで刺激のない生活が続くと、どうしても楽しみは「食」へと向かう。総務省統計局のまとめによると、2020年上半期の肉類支出は牛肉、豚肉、鶏肉のほか、ハム・ソーセージなども含むすべてで増加。金額ベースで牛肉は11.8%、豚肉は10.9%の増加となったほか、鶏肉も売り上げを伸ばしている。
そんな中でも、安価で家計の味方だった輸入肉に、とんだ疑惑が持ち上がっている。
昨年1月に関税が引き下げられたことで輸入量を伸ばしているアメリカ産牛肉。このほとんどに、人体に悪影響を与えると指摘されている「肥育ホルモン」が使われている。
米ハーバード大学研究員を経てボストン在住の内科医・大西睦子さんが解説する。
「もともと牛の体にある天然ホルモンのほか、人工的に作られた合成ホルモンがあり、特に合成の女性ホルモンの危険性が危惧されています。
1970年代半ばから1980年代初めにかけて、プエルトリコなどで幼い女の子の乳房がふくらむなど、異常な発育が続出しました。この原因として、ジエチルスチルベストロール(DES)という合成女性ホルモンが残留した肉の危険性が示唆され、1979年にアメリカで、1981年にはEUでもDESは使用禁止となりました。その後、1988年にEUではすべての肥育ホルモンが全面使用禁止になり、翌年には合成女性ホルモン剤を使用した肉は輸入禁止になっています」
ホルモンは食物にも人間の体にも自然に存在しているため調査が難しく、いずれも科学的証拠までは確立していない。しかし、EUがアメリカ産牛肉の輸入を禁止してからわずか7年で、EU諸国の多くで乳がんの死亡率が20~45%も減少している。
ではなぜ、アメリカではこれほどの危険な薬品を使っているのだろうか。
「肥育ホルモンを投与すると、子牛の成長を早めることができ、飼育期間が短く済む。そのため、エサ代や管理費が抑えられます。経営効率を上げるため、アメリカだけでなく、カナダやオーストラリアでも、当たり前に使用されています」(大西さん)
肥育ホルモンは、日本国内では使用自体を認めていない。世界的にも、WHO(世界保健機関)によって肉への残留基準上限の目安が定められている。しかし、アメリカでは「肥育ホルモンに危険性はない」として基準値そのものがなく、天井知らずの状態だ。