今年も中学受験シーズンが終了した。受験に挑むには、受験生本人はもちろん、家族のサポートも欠かせないが、忘れてはならない存在が塾講師たち。彼ら/彼女たちにとって、毎年1月から2月にかけては毎日が修羅場で、合格発表の結果にやきもきするだけでなく、文字通り眠れぬ日々を過ごすという。中学受験塾の経営者にその苦労と実情を教えてもらった。
都内で小さな塾を営むNさん(40代/男性)がこの業界に足を踏み入れたのは、20年ほど前のこと。Nさんの大卒時は「就職氷河期」だったという。
「企業はどこも採用者数を絞っていて、就職活動で苦労するのは目に見えていたので、思い切って司法試験に挑戦することにしました。しかし択一(最初の試験)はクリア出来ても、その後の論文試験がどうしてもクリア出来ず、何度受けても不合格。当時、生活費を稼ぐために塾講師のバイトをしていましたが、そちらは好調で、だんだんと信用を得られるようになり、教える楽しさにも気付いたので、本格的にこちらの道に進むことにしました」(Nさん。以下「」内同)
30才を前に法曹界に進む夢を諦めたNさん。その後、大手の個別指導塾から独立して一国一城の主となったが、塾業界は淘汰が激しく、とにかく親身に指導することで何とか経営を続けている。生徒や保護者から感謝されるのがやりがいだが、受験シーズンは予想外の事態に直面することも多い。Nさんに、ここ数年で印象に残った出来事を聞いたところ、次から次へと止まることなく話は広がっていった。
・最難関校を狙うA子ちゃんが、1月に腕試しで受けた中学の試験会場で風邪をひく。試験会場はだだっ広いホールで、“すごく寒かった”とか。一斉メールで全受験生に改めて防寒対策を指示。
・私立上位を狙うB君の弟がコロナに感染。テンパった母親から「どうしましょう」と連絡があり、受験校の書類をチェック。別室で受験できることを確認して伝える。
・名門女子校が第一志望のC子ちゃんが滑り止めに落ちてパニックに。泣きじゃくったまま電話をかけてきて、1時間近く慰め続ける。
・大学附属の私立中学を目指すD子ちゃん。とにかくマジメで、体調が悪いのに塾にやって来てしまう。家に帰るよう伝えても“家では勉強できない”と言い張るので、一次避難先として、近くにあるNさんの自宅に来てもらって、家族がいるリビングでドリルを解かせる。