20年近く子供たちを見続けてきたNさんは、最近の傾向についてこう語る。
「上位と下位の子供たちの学力がどんどん離れている気がします。かつて、中学受験は4年生か5年生から始めれば十分間に合いましたが、今や3年生の夏から始めるのが当たり前。優秀な子はスタートが遅くてもその差をすぐに埋められますが、そうでなければスタートが早いほうがやはり有利ですね。子供の能力よりも、親の経済力が受験結果に直結している印象です。
中には小学校に入った瞬間から対策を始める家庭もあって、いくらなんでも早すぎるんじゃないかな……という気はしますね。小学校低学年の子を連れてきて、“将来は理系に進ませたい”と言われても、正直“はあ、そうですか”としか……。一方で、親が共働きで、“家に独りだと危ないので、塾に行かせる”というパターンも目立ちます。いわば児童館代わりです」
ネット情報が氾濫することで、なにを信じていいのかわからなくなる親も多いとか。要注意なのは、自身が中学受験を経験した親だという。
「なまじ中学受験をしている親は、自分の経験に囚われがち。30年も経てば偏差値が大きく変わっている学校もあるのに、子供が受けたいという学校を貶したり、執拗に自分が落ちた学校にこだわって親子で揉めたりするのは“中学受験あるある”です。親が自分の主張を子供に押し付けているところを目の当たりにして、イヤな気分になることもあります」
それでも疲れが吹っ飛ぶような瞬間もある。
「夏は夏期講習、正月は冬期講習があり、まとまって休めるのはGWぐらい。受験シーズンが近づくにつれプレッシャーも高まっていき、正直、“冬が来るのが怖い”と思うのは毎年のことです。
ただ、志望校に合格して親子で嬉し泣きをしている姿を見たり、家に帰るより先に塾にやって来て『受かったよ!』と報告してくれる子を見たりすると、目頭が熱くなります。最近ではバイトの子は元教え子ばかりですし、教え子同士で結婚した子もいて、想定外のコミュニティの場になっているのも嬉しいですね」
Nさんの塾ではすでに「新学年準備のお試し講座」がスタート。やり甲斐はある仕事だというが、気が休まらない日はまだまだ続きそうだ。(了)