キャリア

中学受験世帯の3割は年収600万円未満 それでも「公立を避けたい理由」の切実さ

評判のいい学区を選んだが、実態は

 Aさんの長女は今年、中学受験を終えた。進学が決まったのは都内の人気女子校だ。偏差値もそれなりに高い。

「制服がかわいいので華やかなイメージを持たれる学校ですが、実は学費が安いんです。それで受験させたんですよ。娘は女子校を希望していたので」

 そう言って、Aさんは目を伏せた。希望の学校に合格したのになぜか。それもそのはずで、Aさんと夫は本来「公立志向」だった。Aさんも夫も中高一貫校の男女別学の出身である。夫は御三家出身だ。

「公立出身の人たちの方がしっかりしているというのが夫婦の共通認識なんです。女子はより周囲の人への配慮をする力が必要なはず。社会性を育てるためには公立中学がいいと思い、それで娘たちには公立中学から公立高校に行ってほしかったんです」

 公立中学に進学させたいというのには、経済的な理由もある。Aさんは2人目を産んで、長く勤めていた会社を退職し、専業主婦になった。家庭に専念するのはAさんの夢であった。夫の年収600万円でやっていくには学費は抑えたい。

 夫婦で話し合い、中学受験率が低く、公立小学校や中学の評判がいい学区にマンションを買った。頭金はAさんの退職金を充てた。ところがだ。小学校の入学直後からトラブルが起きた。

「買ったばかりの娘のカーディガンがはさみで切られたんです。1000円ぐらいの物ですが、本人が気に入っていた物だったのでショックでした」

 ママ友に相談すると、いじめっ子男子グループがいて、彼らが大暴れをしていることが分かった。学年が上がると物への破壊行動はなくなっていくが、暴力はエスカレートしていき、しかも隠蔽がうまくなった。

「彼らは頭がよくて、人目のないところで、一人でいる子に対してやるんです」

小3で周囲は学習塾に通い始め…

 Aさんがびっくりしたのは、女の子に対して、蹴ったり、押したりと暴力を振るうことだった。私も取材をしていてその点に驚く。他の小学校でもいじめが過激になっていることだ。

 昭和の時代、小学校で男子から女子へのセクハラや言葉のいじめはあったが、男子が女子に手を上げるようなことは、私の記憶にはない。しかし、今は男子から女子の身体への攻撃もよく聞く。2月7日に文部科学省が「学校で重大ないじめが起きた場合、速やかに警察に相談・通報をすること」という旨の通達を出した。文科省も無視できないほどの深刻ないじめが多くなっているということだろう。

「一度、娘もその男子たちに囲まれて、お腹を蹴られ、泣きながら帰宅したことがあったんです」

 夫は激怒して、相手の家に怒鳴り込もうとした。Aさんは必死で止めた。

「暴力を振るう子の家庭もなにか問題を抱えている場合もありそうじゃないですか。トラブルに発展する可能性もあると思ったんです」

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