学校に電話し、相談すると担任は笑い声を出したという。
「娘さんはかわいいから男の子がちょっかいを出すんですよ」
これも非常によく聞く話だ。女子の親が男子からのいじめを相談すると、教師がそう返す。教師も激務であり、いじめの相談を受けてもすべてに完璧に対応はできないのだ。
そんな環境のせいか、小3の夏になると仲良しの女子が大手塾の講習に参加し出し、秋になるとママ友たちの話題に塾選びが出てきた。「電車で塾に通えるのかしら」「渋幕を受けるわけじゃないなら地元の塾でもいいんじゃないの」。そして、小3の2月には何人かの仲良しの同級生が塾に入っていき、放課後や週末、一緒に遊んでもらえなくなる。
「地元の小さな塾の塾長がトラブルの多い学年は中学受験する率が上がると話していたそうなんですが、娘の学年はまさにそれだったんです」
そうなると、Aさんも悩み始める。
「他の子がいなくなったら、いじめのターゲットが減ります。そうしたら、うちの子がさらに狙われるんじゃないかなと思ってしまって」
そう考え始めたタイミングで、娘本人も「私も中学受験をする」と言い出す。通塾している友達が「女子校に行く。男子がいないんだよ、最高じゃん!」と口にし、影響を受けたようだった。夫も娘が蹴られたのに学校が対応してくれなかったことにショックを受け、公立志向を撤回し、中学受験に前のめりになっていく。
結局、小3の冬期講習から友達が通っている大手塾に通い出した。仲良しの同級生と電車に乗って塾に行くのは楽しいようで、娘はいきいきとし出した。
長女が受験すると妹も「私立中学に行きたい」
長女の塾通いが始まると、Aさんはコールセンターでパートをはじめた。パート先には娘の学校の同級生のママがいた。そのママは子供が中学受験をするので、近所のベーカリーの販売パートから時給がいい事務の派遣社員に転職したという。
「ベーカリーの仕事はお客さんとお天気の話をしたり、売れ残ったパンをもらえたりして楽しかったそうです。でも、今の職場は人間関係が複雑だし、苦情の電話の応対もあってつらい。でも、時給が2倍近いとコールセンターのパートを選択するわけです。コールセンターのパートのほとんどが子供の学費のために働くママです」(Aさん)
もともと中学受験が盛んではなく、Aさん一家同様に中学受験を回避するために、引っ越してきた人たちも多い地区だった。しかし、小4の2月(塾の新学期)や小5の夏休みなどのタイミングで他の同級生たちも入塾してきた。
「女の子同士の人間関係が難しくなったグループもあるみたいで、そこから抜けるために中学受験をするという子もいました。この地域には偏差値が高くないけれど、面倒見がいい女子校があるので、そういうところに進学するから、小6の2月から入塾してきて、クラスをあげようともしないというスタンスの子もいました」
このように「事情があって地元の公立には進学したくない」という子供は実は多いのだ。インタビューをしていても、「娘はブランド好きなので、名門校に通いたいと望んで」というケースもあるがそれはごく少数派。