恐怖とは、相手のことをよく知らないからこそ感じるもの。知れば嫌悪感が薄れるのかもしれない。人々から嫌われ恐れられる「ゴキブリ」を愛する研究者たちにその魅力(?)を聞いた。
菌やウイルスを運び、人に害を与えることから「衛生害虫」に、見た目の気持ち悪さから「不快害虫」に、さらに、電化製品の故障の原因になることなどから「経済害虫」に指定され、“害虫三冠王”に君臨するのがゴキブリである。
「私はよく、虫と触れ合える体験会を行うのですが、一見するとゴキブリには見えない珍しいゴキブリを展示することが多いんです。ゴキブリと知らず手にのせてかわいがっている子供たちに、“それゴキブリだよ”と言うと、誰もが必ず、声を上げて投げ出すんです」
と残念そうに語るのは、磐田市竜洋昆虫自然観察公園の柳澤静磨さんだ(「」内、以下同)。それほどゴキブリに嫌悪感を持っている人は多い。
「しかも、海外でもゴキブリは嫌われているんです……」
グロテスクな見た目、繁殖力の強さ、そして何より、家の中で見かける虫としては比較的大きいなど、嫌われる理由はさまざま挙げられるが、実はほとんどのゴキブリは人に害を及ぼさず野外で暮らしている。
「日本で一般的に見かけるゴキブリは、体長3~4cmと大型のクロゴキブリと、1.5cm前後と小型のチャバネゴキブリの2種類。屋内にいるゴキブリは少数派で、多くは主に山林をすみかにしています。
さまざまなところを徘徊するので、サルモネラ菌などを運んでくることはあります。とはいえ、蜂のような毒針はなく、ことさら怖がる必要もありません。ただ、人間の居住空間に入ってきて、食べ物や食器の上を這ったりするため不衛生であることは間違いないですし、家や飲食店にいない方がいい虫ではあります」
家屋で見るゴキブリしか知らなければ、汚くて気持ち悪い虫としか考えられないが、実は“森の掃除屋”として食物連鎖の中で重要な役割を担っているともいう。
「生態系においてゴキブリは、樹液や木、動物の死骸などを食べて、無機物にしてくれる優秀な分解者です。森の礎を作る存在ともいえます」