ドル安が進んでいる。ユーロ、円、ポンド、カナダドルなど6つのグローバル通貨で構成されるバスケットに対するドルの強さを示すドル指数をみると、2022年9月28日に付けた114.745をピークに下落トレンドを形成している。
足元では7月7日以降急落しており、17日の終値は99.529で2022年4月以来の低い水準となっている。
ドルの需給に大きな影響を与える要因として、まず、内外の金利差、その見通しが挙げられよう。直近のドル指数の動きについては、7月7日に発表された6月の雇用者数(非農業部門雇用者の増加数)が予想を下回ったこと、12日、13日に発表された6月の物価指数(消費者物価指数、生産者物価指数の上昇率)が前月より低下、予想を下回ったことで、金融引き締め政策への懸念が薄らぎ、それが長期金利の下落につながり、急落したと説明できるかもしれない。
ただ、ドル指数がピークを付けたのは9か月以上前のことだ。その後、米国の長期金利は、ほぼ高止まりしていた。ドル安の背景には、景気循環のある過程で発生するような現象だけではなく、もっと構造的な要因が潜んでいるのではないか。その点に関して、3つほど指摘できる。
ひとつ目は、金利高止まりによる金融機関の財務状況の悪化、経営危機への懸念である。今年3月、シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行が破綻、クレディスイスが経営危機に陥った。高金利により貸出先が経営不振に陥ったことや、債券価格が下落したことで、経営が圧迫された。その後も金利の高い状態が続いている以上、銀行経営には一定の負荷がかかり続けている。その上、今後、金利が十分低下する前に景気減速が鮮明となれば、それが金融機関の経営をさらに圧迫しかねない。金融危機再燃のリスクがドルに対する需要に悪影響を与えている。
ふたつ目は、米国財政の悪化である。米国財務省は14日、財務状況を示すデータを発表したが、それによれば、6月の歳出は18%増加しているのに対して歳入は9%減少しておりその結果、赤字額は前年同月比156%増の2280億ドルに拡大している。米国の財政年度は10月から始まるが、6月までの9か月間の累計では歳出は10%増、歳入は11%減で赤字額は1兆3930億ドルと170%増加している。
累計の米国債支払利息は過去最高の6524億ドルに達しており、前年同期比25%増である。この先、景気減速による税収の不足、景気対策による支出増、その財源としての国債発行の増加、さらには金融緩和の再開によるドルの供給増にまで至ってしまえば、ドルの供給過剰が発生しかねない。
米国商品先物取引委員会(CFTC)が7月10日に発表したデータによれば、7月9日までの1週間におけるヘッジファンドによる米国債(10年)の純売建は2019年7月以来の大きさとなっている。それまでの4週間における米国債市場の純資金流出額は356億ドルに達しており今後、グローバル投資家の米国債売りが加速しそうだ(7月12日付、BWC中文網より)。