いずれ訪れる「相続」の際、かかる税金をいかに減らすべきか──大切な財産を守るための“あの手この手”が喧伝されてきた。中でも多くの人が「節税になるうえ、元気なうちに家族の喜ぶ顔を見られる」と、こぞって実践しているのが「生前贈与」だ。
しかし、相続・終活コンサルタントの明石久美さんは「ほとんどの人には生前贈与は必要ない」と話す。
「相続税がかかる家でない限り、生前贈与は必要ありません。むしろ子供や孫に生前贈与したがために、老後資金が減るケースすらあるのです」
実際、慌てて贈与したことで後悔した人は少なくない。秋田県に住むKさん(70才)もその一人。
「節税になるならと、近所に住んでいる娘夫婦に毎年100万円を渡してきました。ですが、気づいたら老後のために貯めていたお金があとわずかで……。先日の大雨で雨漏りした屋根を直した際、自宅をまるごとリフォームした方がいいと言われたのですが、そんな余裕はありません。老後は高齢者施設に入ろうと思っていたのに、それも叶わなくなってしまいました。
“今年はお金を渡せない”と伝えたら“どうして? お母さんの老後資金が足りなくなったら貸してあげるわよ”と言われる始末……」
わが子に贈与したがためにお金が足りなくなり、その子にお金を借りるなど、本末転倒の極みだ。税理士の板倉京さんも、長生きリスクを考え、生前贈与には慎重になるべきだと語る。
「仮に財産が5000万円あったとしても、2人の子供に毎年110万円ずつ贈与していれば、10年間で2200万円も消える。残りの2800万円で年老いた夫婦2人、果たして何年暮らせるでしょうか」