就任以来、防衛増税など負担増を打ち出してきたイメージの強い岸田文雄・首相。最近はネット上で「増税メガネ」という不名誉なアダ名まで飛び交うようになっている。岸田首相はそうした論調を気にしてか、「税収増の還元」「企業への減税措置」に言及するなど、マイナスイメージの払拭に躍起となっているが、果たして本当に国民の負担を軽減するつもりがあるのだろうか。
会社員や公務員の配偶者で扶養に入っている人が、パートなどの収入が増えると新たに社会保険料負担が生じて手取りが減ってしまう「年収の壁」問題を巡っては、手取りが減らないように企業に期間限定の助成金を出すなど、政府は10月から支援策に乗り出している。
ただし、これは2年間の時限的な支援策であり、抜本的な制度改革ではない。
岸田首相は10月5日、都内の視察先での記者団とのやり取りのなかで、〈会社員らに扶養される年金の「第3号被保険者」などについて「根本的に制度を変えないといけない」と述べ、制度改正に意欲を示した。見直せば新たな保険料負担を求めることにもつながるが、「制度を変えないと問題解決につながらない」と強調した〉(同日付、朝日新聞デジタル)ことが報じられている。
現行制度において会社員や公務員の扶養に入っている配偶者(第3号被保険者)は、従業員101人以上の企業に勤務して週の労働時間20時間以上、年収106万円以上などの条件を満たすと厚生年金や健康保険に加入して自ら保険料を支払う必要が出てくる。結果として手取りが減るため、「106万円の壁」の手前で就労調整するケースが少なくなかった。
厚生年金の加入者740万人増の皮算用
そうした人の手取りが減らないように企業に助成金を出すというのは時限的な対策だが、岸田首相の言う「根本的な制度変更」とはどのようなものになると考えられるのか。年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾氏はこう言う。
「政府は厚生年金の加入要件をどんどん広げてきており、今後もその流れに沿った制度改正が進められるものと思います。企業の規模要件の撤廃や賃金要件の引き下げによって、少しでも保険料を払わずに年金を受け取れる人を減らしていこうという思惑があるものと考えられます」
つまりは「第3号被保険者」に該当する人を少しでも減らそうとする方向で制度変更が進められるとみられているのだ。厚生労働省の年金部会の資料を見ても、〈適用拡大の対象を月5.8万円以上の全ての被用者とした場合〉は厚生年金の加入者が740万人増やせる、といった“皮算用”が記載されている。