広報活動によって企業の活動が広く伝わり、株価に良い影響を及ぼすことがある。10年以上にわたって上場企業の決算説明会に参加し続け、1000社以上を継続調査している経験をまとめた著書『成長する企業がやっている分析する広報』が話題の分析広報研究所・小島一郎氏が、投資家に支持される企業の広報活動を読み解く。
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ライフネット生命(7157)は、2012年に上場してから営業赤字が続いていましたが、時価総額で400億円を超える評価を維持してきました(時価総額900億円以上)。また、マネーフォワード(3994)は、2017年の上場以来、決算は赤字のままですが、上場時と比べて時価総額は約8倍(現在は2800億円以上)になっています。
両社ともに高い期待をされるなかでなかなか黒字に浮上することがなく、厳しい見方をする投資家もいたことでしょう。しかし、その厳しい見方を抑え込むような「説明力」が両社にはありました。
マネーフォワード、ライフネット生命の「教える広報戦略」
マネーフォワードは、2017年の上場以前から、積極的なテレビCMで知名度を高めてきました。サービス名(社名と同じ「Money Forward」を多くの自社サービスに冠したネーミングにしている)の広告宣伝に積極的です。さらに、消費者がお金のリテラシーを高めるためのメディアを運営するなど、自社の宣伝に留まらず、「Fintech」や「SaaS」をキーワードに、自社サービスを社会的に位置づける発信も行っています。
筆者も、マネーフォワード主催の「Fintechトレンド解説会」に、参加したことがあります。金融分野におけるDXという注目の業界動向に関して、積極的に「教える」ことで、メディアやアナリスト、投資家に対して「教えることのできる会社」という認知を作っていることに感心しました。
筆者は、顧問税理士の関係でマネーフォワードの法人向けサービスを実際に利用し、機能面ではまだまだ改善の余地がある印象を持っています。一方で、問い合わせをした際の顧客対応に関しては、同業の競合サービスと比べて、非常に丁寧かつ誠実な対応をしてくる印象を持っています。好感をもたせるサービス対応や、「教える」メディア・アナリスト対応などからも、投資家からの人気の高さや、高い時価総額を納得させられる企業です。
ライフネット生命は、「インターネットを活用して生命保険にかかる費用を安くする」という分かりやすいメッセージがあります。2012年上場当時の代表取締役会長であった出口治明氏と代表取締役社長であった岩瀬大輔氏の34歳差の経営者がメディアに多く登場し、注目されていました。
同社は上場後、投資家から一定の支持を得ていましたが、黒字転換を実現させる前に、出口氏が2017年、岩瀬氏が2019年にそれぞれ経営から離れました。
2018年に森亮介氏に社長が変わって以降も黒字転換を果たせていませんでしたが、2023年、IFRS(国際会計基準)に適用することで、2024年度から黒字転換となる見込みです。