首都圏・関西圏の中学受験の大手塾であるSAPIX。特に難関校を狙う層に大きな支持を集めている。一方で、SAPIXの家庭学習を重視するシステムだと、上級生になるにつれ、親の負担も増えてくるようだ。著書『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする「SAPIXで苦戦する親たち」の第2回。【全4回。第1回から読む】
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なぜ、SAPIXの生徒の親たちは一様に「大変だ」と嘆くのか、について書いている。前回、紹介したA子さんは、中高一貫校の女性教諭だ。小学3年の長女が「オーインに行って医者になるんだ」というので、中学受験をさせることにした。塾選びで失敗しないように、主要な塾のテキストをメルカリで買って目を通し、情報を集め、結果、「桜蔭を目指すならSAPIX一択」と考えて、小学3年生の2月に入塾させた。ところが5年生になって、結局、転塾をすることになった。なぜ、そうなってしまったのだろうか。
SAPIXの上位クラスはα(アルファ)クラスといい、一番上がα1(アルファワン)で、「アルワン」といえば、中学受験のトップ層を示す。そのα1、α2、α3……と続き、その次に通称「アルファベットクラス」がある。A子さんの長女は、最初はアルファベットの「C」クラスで下から3番目だったが、4年生の7月の「組分けテスト」ではαクラスに入った。
「別に気合いを入れて勉強しているわけじゃないのに、ぐんとクラスが上がったんですよ。そうなると、うちの子も桜蔭に入れるんじゃないかなと密かに期待してしまって。桜蔭出身の私の姉も家に来て宿題を教えてくれたり、私も頑張って付き添っていたんです。でも5年生になるとちょっとそのフォローが大変になってきてしまって…」
SAPIXのテキストも4年生の頃はそうは難しくもないし、量も多くない。基礎学力がある生徒ならすいすい解けるし、一部の難しい問題や苦手な部分だけを教えればよかった。
ところがだ。5年生になるとテキストがどんどんと難しくなる。
「SAPIXを辞めたら桜蔭に入れない」
「5年生の平面図形の問題なんかは、私も解説を読み込まないと解けない問題も出てきました。そんな問題、もちろん娘も解けないから、大人が横に座って教えないと宿題が終わらなくなってしまって」
その上、小学5年の夏から、医師である姉が遠くの病院に異動になって、勉強を見るのが不可能になった。
「その後もオンラインで教えてくれていたんですが、それだと図形の問題などは教えにくいんですよね。しかも姉の異動先の病院が忙しくて、なかなか時間も取れなくなってしまって」
そのため、A子さんが基本、一人で勉強を見ることになったが、中高一貫校の教諭も医師に負けず劣らず激務である。文化祭や説明会の準備などで、秋は仕事が忙しくなり、しばらく娘の勉強のフォローをサボったら成績が下がってしまった。
「それで転塾をさせようってことになったんです」
ところが娘本人がSAPIXを辞めたくないといい出した。