「航空業界2030年問題」──今後5年ほどで、旅客機パイロットの大量退職が始まることが危惧されている。その一方で、インバウンド客の増加などにより、航空需要はさらに拡大していく傾向にあり、「パイロット不足」がますます深刻になると予想される。それどころか、人手不足の問題は二重三重にもこの業界にのしかかっているという。目前に迫る“エアライン危機”の現実を、ベストセラー『未来の年表』シリーズの著者・河合雅司氏が解説する。【前後編の前編。後編を読む】
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コロナ禍が空けて、航空各社の業績が回復している。
国土交通省によれば、2022年度の国内線航空旅客数は9066万人で、コロナ禍前だった2019年度の89%まで回復した。回復が鈍い国際線も前年度比8.5倍増の3047万人だ。
政府は「2030年の訪日外国人旅行者6000万人」を目標としており、インバウンド需要を取り込みやすい航空業界の成長に期待している。
だが、政府の皮算用通りに進むかは疑わしい。人手不足が足枷となっているためだ。このまま行けば、成長どころか飛行機を思うように飛ばせなくなる日が来るかもしれない。
まずパイロットが足りなくなる。国交省の調べでは、主要航空会社のパイロット数は2023年1月1日現在7091人(機長4235人、副操縦士2856人)だが、年齢構成が50歳以上に偏っているのだ。各航空会社の操縦士としての上限年齢に今後15年ほどで達する人が多い。パイロットが大量引退する「航空業界2030年問題」である。LCC(格安航空会社)は機長の約4分の1を60代が占めており、とりわけ厳しいと見られている。
パイロットの大量退職の一方で航空需要は伸びるのだから、状況はさらなる悪化が予想される。国交省は新規パイロット需要予測として、2030年に400~700人の供給が必要となるとしている。2021年の供給実績は265人なので、かなり高いハードルだ。