80歳以上の高齢者が総人口の1割を占める超高齢社会ニッポン。今年は「団塊の世代」がすべて75歳以上となり、今後ますます要介護者が増えていくことも予想される。そんな中、政府は「訪問介護の基本報酬引き下げ」を含む報酬改定に踏み切った。今回の制度変更は、介護現場で働く人々に何をもたらしているのか? 人口減少時代の社会経済問題に詳しい作家・ジャーナリストの河合雅司氏が解説する。【前後編の前編。後編を読む】
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2024年度の介護報酬改定が波紋を広げている。介護サービス全体では1.59%のプラス改定となったが、訪問介護の基本報酬が引き下げられたためだ。
介護事業経営実態調査(2023年度)によると、2022年度決算における訪問介護の収支差率(収入に対する利益率)は7.8%(全サービス平均は2.4%)と、一見、高く見える。
だが、東京商工リサーチによれば2023年に倒産した訪問介護事業者は前年比34.0%増の67件となり、過去最多だった2019年(58件)を大きく上回った。事業を停止し、休廃業や解散したところもある。ホームヘルパーの不足に加え、燃料費などの高騰が影響した。
倒産や休廃業が相次いでいるのに基本報酬を引き下げるというのは「逆行」との印象を受ける。
「収支差率7.8%」だけでは判断できない地方の現実
事実、介護事業経営実態調査のデータを詳しく見ると、収入は前年度とほぼ変わっておらず、支出が減少している。これは、訪問介護事業者の経営が上向いているわけではなく、人材が集まらず人件費が減少したため利益率が高く見えているだけということである。