事件の容疑者が逮捕され、検察が容疑者を起訴すれば刑事裁判に進む。この起訴/不起訴は、どのように判断されるのだろうか。また不起訴となった事件を民事訴訟に進めることはできるのだろうか。わいせつ事件を例に弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
高校生の娘がいる父親として、怒り心頭で納得いきません。役所勤務の男が電車内で、10代の女子生徒のスカートに自分の体液をかけるも不起訴に。検察が不起訴の理由を明らかにしていないため、詳細はわかりませんが、娘が同じようなことをされたら、民事で賠償金を求め、犯人に償わすことはできますか。
【回答】
被害者の年齢によっては、あり得る事態です。
犯罪に問うには、刑法他の刑事罰の制裁がある法令の違反行為が前提になります。
体液をかけるには【1】男が着衣の外に性器を露出させ、【2】体液が女性の着衣や身体にかかることが必要です。【1】は公然と性器を出せば、刑法の公然わいせつの罪になります。しかし、人目につかないようにすると公然性はないので、公然わいせつの罪は成立しません。
【2】の体液を身体にかければ、違法な有形力の行使として暴行になると思いますが(事例は知りません)、かけるという故意が必要です。
また、着衣にかけると器物損壊罪で犯罪となりますが、この罪は親告罪ですから、被害者が告訴しなければ、処罰できません。
もし、被害者が13歳未満、もしくは13歳以上、16歳未満であり、犯人が5歳以上年長の場合は、不同意わいせつ(強制わいせつ)で処罰されます。それ以上の年齢だと暴行や脅迫などを受け、不同意の意思の表明や不同意を全うできない状態でされたわいせつ行為であることが必要ですから、【1】と【2】だけでは不同意わいせつにはなりません。痴漢を処罰する迷惑行為防止条例では「衣服その他の身に着ける物の上から、又は直接身体に触れる」ことが要件になり、触らなければ、違反にはなりません。