自動車業界は認証不正問題に揺れているが、その一方で好決算が相次いだ。なかでも劇的な復活を遂げたのが、ホンダだ。その裏には、創業者・本田宗一郎氏以来の伝統を持つ“聖域”とされた研究所の改革を含む、果断なテコ入れがあった──。「EV(電気自動車)」への転換期を迎えるホンダをジャーナリスト・井上久男氏がレポートする。
「うちの社長は突っ走る“競走馬”みたい」
5月10日、ホンダの三部敏宏社長(62)が発表した2024年3月期決算は、売上高が前期比20.8%増の20兆4288億円、営業利益が同77%増の1兆3819億円。営業利益を初の1兆円台に乗せて過去最高益を更新した。
二輪の好調に加え、ホンダにとって主戦場である北米での四輪販売の回復や値上げなどが好業績を牽引した。稼ぐ力が回復したことで、従前よりも1兆円多い3兆円のキャッシュフローを達成した。
6月3日には、認証試験で不正事案があったことを三部氏が記者会見して謝罪したが、いずれも過去に販売した車が対象であるため、業績に与える影響は少ないだろう。
「私は激動期に向いているタイプ。プレッシャーに強く、むしろ安定した時代だとやる気が出ない」
三部社長は3年前の社長就任会見でこう語った。
その言葉通り、BYD(比亜迪)など中国勢の台頭、EVシフトを中心とする技術革新など激変する自動車産業界において、攻め続ける経営スタイルを貫いている。
業界関係者が驚いたのは今年5月16日、三部氏が、「2030年度までにEVや車載ソフトウエア領域に10兆円投資していく」と発表したことだ。従来計画に5兆円も積み増して倍増させる。
2030年までのトヨタ自動車の同領域への投資額は現時点の計画で5兆円。2023年度のトヨタの世界販売台数は944万台に対し、ホンダは411万台。トヨタの4割程度のホンダが、次世代技術にトヨタの2倍も投資することになる。ここに「攻めの姿勢」が見えるのだ。