4月にJALの社長に就任した鳥取三津子氏(時事通信フォト)
大手航空会社JALの難局が続いている。1月2日、羽田空港に着陸したJALの機体と離陸準備をしていた海上保安庁の航空機が衝突し、機体が炎上。4月には機長とCA(客室乗務員)が大量飲酒をし、機長が搭乗予定の便が欠航になった。そんなJALの舵取りを任されているのが、4月に新しく社長に就任した鳥取三津子氏(59)。航空業界初の「CA出身」「女性社長」とあって大きな注目を集めた。そんな鳥取社長の母校は長崎にある活水女子短期大学。活水女子短期大学から上場企業の社長を輩出したのは今回が初だという。
東京商工リサーチが行なった「全国女性社長調査」(2023年)によると、女性社長の人数はこれまでで最多の61万2224人だった。同調査ではその「母校」についても詳しく調べている。全国の女性社長の「出身大学ランキング」トップ100において、上位に入った大学について検証していく。
女性社長の出身大学ランキング1位~25位
女性社長の出身大学ランキング26位~50位
国公立出身者増は「脱公務員」「起業環境の整備」の影響か
まず、1位に輝いたのは「日本大学」。昨年から2年連続のトップとなった。次いで2位が「慶應義塾大学」。3位には、前年4位の「早稲田大学」が浮上、「東京女子医科大学」と順位が入れ替わった。上位の大学について『経済界』編集局長の関慎夫氏が語る。
「『日本大学』が1位を維持し続けるのは、やはり母数でしょう。そして、上位の大学は横の繋がりも強い。『慶応大学』の場合は、特に三田会のパワーが強い。大手企業のほとんどすべての職場に三田会があるわけです。彼らはまず社内で固まるし、それから海外に行けば、例えばニューヨークにも三田会がある。
不動産関係の企業だと、三田会に入っている不動産関係者だけが集まる会合があり、そこでしかない物件情報が出され、それでビジネスをするといった独特の結束の強さもあるようです。当然ながら、三田会には慶応大出身者であれば男女を問わず入れる。他の大学出身者よりも、女性が仕事関連のネットワークを構築するのに有利である可能性が考えられます」
5位は前年と同じく「青山学院大学」。6位には前年7位の「同志社大学」が「日本女子大学」と入れ替わった。「共立女子大学」は14位から16位にランクダウン。一方でDeNA創業者の南場智子氏(62)の出身大学でもある「津田塾女子大学」は69位から63位に順位を上げており、女子大のなかにも差が見えた。調査を続けてきた東京商工リサーチ情報本部・坂田芳博氏がこの10年あまりの変化についてこう語る。
「『全国女性社長調査』を開始した2010年当時からの変遷をみると、国立大学のランクアップが目立ちます。例えば、今年8位の『東京大学』は、2010年は31位なのですが、2011年は18位、10年前の2013年は14位と徐々に順位を上げてトップ10に入ってきている。これは14位の『広島大学』や18位の『大阪大学』なども同じような傾向です。
男女を問わず、これまで国立大学の学生は公務員になるケースも多かった。しかし、2010年代以降、自ら起業できるような環境が整ってきたり、女性の管理職を増やす動きが活発化したりすることで、民間企業での“女性活躍”の機会が増加した。そういった環境の変化が国立大学ランクアップの背景にあると考えられます」
JALのような人事は「今後も増えていく」
女性社長の出身大学ランキング51位~75位
女性社長の出身大学ランキング78位~100位
「国公立大卒」の女性社長では、2020年にマネックスグループ社長に抜擢された清明祐子氏らが知られている。
「昨年6月に女性初の金融グループのトップに就任した『マネックス』グループの清明祐子氏(46)は京都大学出身。三和銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行後、マネックスグループに転じて出世街道を歩みました。あとは昨年、『サントリー食品インターナショナル』の女性初の社長に就任した小野真紀子氏(64)。小野さんは東京外国語大学出身で、サントリーのなかでも完全な国際派です。海外経験が長く、海外から見た日本企業の在り方というものを語れる人物です」(前出・関氏)
アプリ会社「coly」を創業し、双子経営者としても注目される「中島姉妹」。姉の中島瑞木副社長(35)は東大出身。妹の中島杏奈社長(35)は早稲田大卒だ。コンサル会社「ビザスク」を起業した端羽英子CEO(45)も東大出身だ。上位に入るような大学は若くして起業する女性も増えてきているようだ。
経済ジャーナリストの大西康之氏は今後、「JALのような大手企業でも女性社長の登用は増えるだろう」と見る。
「鳥取氏が2019年に『客室推進安全本部長』になってから、JALの安全教育の改革が進んだと言われています。鳥取氏がCAとして入社したのが1985年で、同年夏に日本航空123便墜落事故が起きている。だから、彼女の安全に対する意識はものすごく高い。そこが評価されたのではないでしょうか。
JALだけでなく、今後も女性社長は徐々に増えていくでしょう。それは企業にとってプラスの効果を生みます。同じような年齢、学歴、価値観、国籍の人たちが集まると、どうしてもNOと言えない風通しの悪さが出てくる。しかし、話し合いの場に女性がいたり、多様性が生まれたりすると、空気も変わるはずです」
男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年のことで、JALの鳥取社長やサントリー食品インターナショナルの小野社長は施行前の入社、DeNAの南波社長は施行された年にマッキンゼーに入社したいわゆる「均等法第一世代」だ。そうした60歳前後の女性経営者の活躍に加え、女性の差別的扱いを禁じた1999年改正法施行後の均等法第二世代やそれ以降の世代の台頭も目立ってきている。
女性経営者がもっと活躍できる社会が、少しずつ実現に近づいているということなのか。