過熱する一方の「中学受験」ブーム。「学校で仲の良い友だちが中学受験をする」「あの子も塾に通っている」──そう聞くと、小学生の子をもつ親としては、「中学受験しないと取り残されてしまうのではないか」と不安になることもあるのでは。しかし、全国で私立中学に通う生徒は1割に満たず、最新データでも中学生全体の7.9%に過ぎない(文部科学省「令和6年度学校基本調査(速報値)」より算出)。大多数が公立中学から高校受験を経て進学するなか、中学受験の情報にばかりさらされているために、思い込みの呪縛に囚われてしまうのではないか。中学受験か高校受験かを迷う人に必要なのは、様々なデータやファクトに基づく「正しい情報」だ。シリーズ「“中学受験神話”に騙されるな」、フリーライターの清水典之氏が、受験情報の専門家らへの取材を基にレポートする。【第1回】
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首都圏では2024年の中学受験の受験率が過去最高の18.12%に達し、小学生のおよそ5人に1人が中学受験に参入している(首都圏模試センター調べ)。過熱する一方の中学受験ブームのなか、小学生の子を持つ親のなかには、「中学受験しないと我が子は取り残されてしまうのではないか」と焦りや不安を感じている人が多い。
しかし、5人に1人が中学受験するということは、5人に4人は公立中学に進学し、高校受験をしているということで、圧倒的多数は「公立中→高校受験」という進学ルートである。このルートを選ぶと取り残されるのなら、大多数が取り残されていることになるが、決してそんなことはない。
小学生の保護者が知らない「高校受験の現実」
メディアで目に触れるのは中学受験の情報ばかりで、子供がまだ小学生の段階では、親は「公立中→高校受験」ルートについて、現在の状況を知らないか、あるいは自身が中高生だった時代の話しか知らないことが多い。情報が「中学受験」に偏っているから、「中学受験しないと我が子は……」という呪縛に絡め取られてしまう。
正しい判断を下すには、親(家庭環境)と子に中学受験の適性があるのかを見極め、そのうえで、「公立中→高校受験」ルートの正しい情報を得ることであろう。
『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)著者で、Xアカウント「じゅそうけん」で10万8000人のフォロワーをもつ受験総合研究所(じゅそうけん)の伊藤滉一郎氏は、適性がない層にまで中学受験が広まっていることが問題だと指摘する。
「30年くらい前まで、中学受験は富裕層が参入するもので、全体で言えば1割くらい、公立小学校ではクラスで一番の子がやるものでした。ところが、少子化で子供の数が減ったことで、受験層が首都圏では2割にまで拡大し、都内にはクラスの半数以上が中学受験をしているような小学校もあります。中学受験に向いている親子なら、どんどん挑戦すべきとは思いますが、明らかに向いていない親子までメディアや周囲に煽られて参入し、子供が過酷な受験勉強を強いられていることには問題があると思います」
もともと中学受験は“富裕層”のものだったというのは、要するに、多額のお金がかかるからである。次ページ以降では、中学受験ルートと高校受験ルートで実際にかかる費用がどれぐらい違うのか、図表とともに説明しよう。