かつて毛沢東の「文化大革命」では、紅衛兵を標的の幹部にけしかけて打倒する事態が頻発した。一方、習近平・国家主席の「反腐敗キャンペーン」は“政敵潰し”が目的だったとされる。「文革」と「反腐敗」の相似性はどこにあるのか。中国の歴史や文化、社会に精通する社会学者の橋爪大三郎氏と、元朝日新聞北京特派員のジャーナリストでキヤノングローバル戦略研究所上席研究員の峯村健司氏が読み解く。(両氏の共著『あぶない中国共産党』より一部抜粋、再構成)【シリーズの第14回。文中一部敬称略】
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橋爪:文化大革命のころに問題とされたのは、党の幹部たちの「特権」でした。
特権はたしかにあったと思います。まず、党の幹部は、経済的に豊かである。食糧や衣料品、住宅、居住地域からして一般の人びととは違う。その子どもは幹部専用の保育園に通えたりしました。革命初期は、現物給付の世界です。配給の待遇が違うのです。
そうすると、共産党の幹部は、革命のために幹部をやっているのか、共産党幹部にだけ許された特権目当てで幹部をやっているのか、だんだん区別がつかなくなります。
どうも毛沢東は、そういう幹部を毛嫌いし、憎んでいた。資本主義が復活している。自分のことは棚に上げてね。だから紅衛兵をけしかけて打倒したのだと思います。
その打倒の手段として使われたのが、共産党の幹部全員にひとりずつ作られていた「個人档案」です。英語に訳すとパーソナル・ドキュメント。紅衛兵は、目当ての幹部の思想や作風を攻撃したくても、材料がありません。そこで誰かからこっそり、「档案」のなかみを教えてもらう。幹部の档案を見ることができるのは、もっと上の幹部ですから、党内闘争で政敵を打倒するための道具になったのです。
文革の実態は「党の分裂」だった
橋爪:この「個人档案」は共産党のかなり古い時期、おそらく新中国の設立よりずっと前、国民党と合作したり闘争したりしていた時期からあった。党員全員について作られて、国民党のスパイに対抗し、共産党の組織を防衛するために用いられた。
そこには、親戚が国民党員です(そういう例は多い)とか、出身が地主ですとか、資本家ですとか、過去にこんな不祥事を起こしましたとか、こんな功績がありましたとか、あらゆることがずらっと書かれている。これを、共産党の档案館などから手に入れて、高位幹部が紅衛兵に内容を漏らす。すると、紅衛兵は幹部の家に押しかけて「おまえの父親は資本家だろう」「おまえの弟は台湾に行っただろう」「おまえは大学でいい身分だったじゃないか」などと、あることないことを言って辱め、家中を叩き壊して暴れ回ったりして、耐えがたい精神的ストレスを与える。これが、文化大革命です。
紅衛兵のこうした攻撃は、党の高位幹部に協力者がいないとできない。つまり、実態は特定の幹部を標的にし、辱めて打倒するという、党の分裂だったんです。
峯村:文化大革命を「党の分裂」とみると、習近平の権力闘争と似ているところがあります。習近平の場合、打倒したい幹部がいたら、その理由に使われるのは「汚職」です。