今年から本格的に始まる相続制度の大改正で「配偶者居住権」が新設される(来年4月施行)。
これは夫が亡くなった後、遺産分割で自宅が売却され、残された妻が住む家を失うといった悲劇を招かないようにするために、夫の遺言などで自宅の所有権は子供たちが相続し、妻には「居住権」を与えて死ぬまで無償で住み続けることができるようにする制度だ。
「配偶者の権利を守る制度」とされるが、鵜呑みにすると思わぬ落とし穴がある。税理士・板倉京氏の指摘だ。
「この新しい相続制度を使った場合、一番問題になりそうなのは、自宅で1人暮らしをしていた配偶者が介護が必要になり、老人ホームに入居したいといったケースです。配偶者が自宅の所有権を持っていれば家を売ってホームの入居金などに充てることができるが、居住権は売買ができないので入居費にあてることができません」
もちろん、自宅の所有者である子供たちが「売ってホームの資金にしていい」と合意すれば問題は起きないが、そもそもこの新制度は、円満でない家族関係を想定した制度のはずだ。
「こうしたトラブルを避けるには、新制度に飛びつくのではなく、相続時によく話し合い、『将来的には売却して相続分を分割する』という合意を結んで子供たちと配偶者の共同名義にするようなやり方のほうが配偶者が権利を主張しやすいと思われます」(同前)
※週刊ポスト2019年7月12日号