今年8月、米国債市場で異変が起こった。長期金利(10年もの)が短期金利(2年もの)を下回り、長短金利が逆転する「逆イールド」が発生。通常、国債の金利は長いほど高くなり、それが逆転することは極めて珍しく、「景気後退の予兆」とされる。一時は市場も悲観ムード一色になったが、年末にかけて逆イールドも解消され、米国株も史上最高値を更新した。はたして今回の逆イールドは何を意味していたのか。グローバルリンクアドバイザーズ代表の戸松信博氏が解説する。
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2008年の金融危機以降、大規模な金融緩和が各国で相次ぎ、マネタリーベース(資金供給量)は世界中で3~6倍にも膨らんでいるなか、米国債の流通量は2倍ほどしか増えていない。世界中にマネーが溢れていても、数少ない有望な受け皿として注目される米国債の数が限られるため、少ないパイを巡って米国債に買いが集中している格好だ。
何より米国は、FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げから利下げへと転じて金融政策をしっかりと舵取りしているうえ、トランプ政権が大規模減税と大型インフラ投資という財政政策も積極的に打ち出している。欧州では緊縮財政が続き、日本も景気を大きく浮揚させるような有効な財政政策は打てていないなか、先進国では米国の積極策だけが浮き彫りになっている格好だ。その結果、米国株はもちろん、米国債にも資金が集中しているのである。
このように、将来の景気悪化を示唆するものではなく、需給問題などから発生したのが今回の逆イールドの真相ではないかと見ている。そして、既にイールドカーブは正常な状態に戻っており、短期金利はFRBが緩和的な金融政策をとっていることから、しばらくは低い水準が続く見通しである一方、長期金利が緩やかに上昇するなど、現在のイールドカーブからは将来の景気回復も読み取れる。
だが過去には、2000年に逆イールドが発生した後にITバブル崩壊へとつながり、2007年にも発生してサブプライムローン・ショックからリーマン・ショックへと連なる世界的金融危機をもたらしている。その時に見られた“危ないパターン”はどうだったのか。