子や孫に生前贈与する場合、年間の贈与額を110万円以下にする「暦年贈与」なら税金(贈与税)がかからない。これを利用することは相続税の節税テクニックとして一般的な方法となっている。しかし、やり方を間違えると相続税がかかるケースがある。
独り暮らしの父親が亡くなり、実家を片付けているときに孫名義の通帳や印鑑を見つけたという大阪市内の男性A氏(53)が話す。
「通帳には“孫の結婚資金にしてほしい”という手紙とともに、10年前から毎年110万円、合計約1000万円が入っていました。しかし、税務署から“実際に贈与されたものではない名義預金”と判断されて相続税が課せられてしまったんです」
なぜ、「生前贈与」と認められなかったのか。山本税理士事務所の山本宏・税理士はこう解説する。
「A氏のケースのように、老親が“大学の学費や結婚資金など、ここぞという時に使ってほしい”という思いから、通帳や印鑑を渡さずにこっそり貯金しているケースは少なくありません。
しかし、口座名義を子や孫にしていても、通帳や印鑑を本人に渡していなければ、管理権が名義人にあるとはみなされないため、贈与と認められないのです」
A氏は父の死後まで預金の存在すら知らなかった。そのため、父と子と孫のいずれにも贈与の認識がなかったと判断されたのだ。課税されないようにするにはどうすればよかったのか。
「暦年贈与は、孫が普段から使う預金口座に振り込むのがベストですが、“無駄遣いしないか心配”という人も多い。その場合は、孫名義の年金保険に加入する方法もあります。年間110万円で契約した保険料を孫の口座に振り込み、そこから引き落とされるようにすれば、管理権は移っているので贈与扱いとなります」(同前)