コロナ後は社会が一変する。政府は「新しい生活様式」のモデルを示し、日常生活や家族関係から、働き方、余暇の過ごし方まで国民にライフスタイルの転換を求めている。新しい社会に変われば、これまでの価値観や判断基準は通用しなくなり、従来の「勝ち組」と「負け組」の逆転が起きる。それは定年後の働き方についても言える。
東京郊外のニュータウンで妻と2人暮らしのAさん(64)は、「脱サラしなくてよかった」と胸をなでおろしている。
同じ時期に家を買った隣家のBさん(63)とは同世代で家族ぐるみの付き合いだが、定年後、違う働き方を選んだ。
Aさんは雇用延長で会社に残り、給料は半分ほどに減った。それに対してBさんは定年後、営業コンサルタントとして独立し、「自営業で保障はないけど収入は現役時代とほとんど変わらない」と自慢話を聞かされてきた。夫婦でよく旅行に出かける姿を、Aさん夫婦は羨ましくも感じていた。
ところが、新型コロナの感染拡大で状況は一変。現在、Aさんはテレワークとなっているが、給料は今まで通り出る。最近、在宅勤務で通勤時間がなくなり、庭いじりの趣味ができた。
それに比べて、Bさんはコンサル契約を全部打ち切られて仕事を失った。自営業で失業保険もおりないため、100万円の「持続化給付金」を申請中だ。緊急事態宣言が解除されても、当面、再契約は見込めないという――。
コロナの前後で定年後の働き方の選択基準が大きく変わろうとしている。国会では感染拡大さなかの3月31日に改正高年齢者雇用安定法が成立。来年4月からは、従来の65歳までの雇用延長期間の後も、企業に70歳まで社員の雇用機会を確保する努力義務が課せられる。
具体的な雇用確保の方法は、定年延長や契約社員としての継続雇用の他に、フリーランス契約、起業支援など、社員が70歳まで収入があるように企業が資金提供することを求められている。
コロナの感染拡大前は、人手不足が深刻で、中小企業にもシニア社員を積極的に雇用する余裕があり、勤めてきた会社を離れてもスキル次第で70歳まで稼げるケースが少なくなかった。しかも、この法改正によって、制度的にも70歳まで多様な働き方で雇用が確保される社会になることから、今後はそれを見越してBさんのように定年後、早い段階で脱サラを選ぶサラリーマンが増えると予想されていた。