いままで、介護の理想といえば、細やかなサービスを受けながら安心して生活できる介護付き有料老人ホームに入居することだった。だが、全国各地の高齢者施設でクラスター(集団感染)が発生し、多くの死者が出た。高齢者が集団で住まう環境下では感染被害が深刻化することが明らかとなり、感染が拡大する地域の施設では、入所者に帰宅を促す動きもある。
とはいえ、「在宅介護」は家族の仲がいいからといって、必ずしも成功するわけではない。介護保険制度を活用して、お金も手間もかけずに行うことが失敗しない重要なコツだが、公的制度やサービスを使いこなせば必ず成功するわけでもない。家庭ごとに合う介護の形態はさまざまだ。
ケアタウン総合研究所代表の高室成幸さんも「向き、不向きはある」と話す。
「若い頃、親に迷惑をかけたり、離れて暮らしていて、『いままでの分も親孝行する!』などと気合を入れてケアをする人もいますが、これは自己満足的な介護になりやすい。この構図は夫婦でも同じで、浮気などをして妻を散々泣かせた夫が、妻の介護に没頭するというパターンも多い。自分中心で、“やってあげている”という気持ちがベースにあるので、思いどおりにいかないときに暴言、暴力を起こしやすいんです」(高室さん・以下同)
介護される側も、する側も納得できる「在宅介護」をするためには、本人とやりとりできるうちに「人生会議」をやっておくことが欠かせない。
「まずはキーパーソンを決めましょう。司令塔となる家族を1人決め、重要な決定は必ずその人を中心に行う。日常の介護にかかわることは、家族それぞれで分担しても構いません。家族は、自分たちの手で介護したいと思っていても、本人は子供におむつを替えられるより、プロにやってもらいたいと思っていることもあります」