東京五輪をめぐっては世論も「予定通り来夏開催」と「中止」で割れているようだ。日本にとって最良の決断とは何なのか。経済アナリストの森永卓郎氏(63)は次のように考える。
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いまの世界的な感染状況をみると、開催できるシナリオが頭に浮かびません。参加国からの入国者を選手だけに限り、来日した際のPCR検査と2週間隔離を義務付け、完全無観客で開催するなど最大限の予防策を講じたとしても、ある程度の感染拡大は覚悟しなければならないでしょう。
こうした状況で強行開催しても、一般消費者の消費行動につながるとは思えません。無観客開催での経済効果を4000億円とする指摘もありますが、私は無観客の場合の経済効果はスポンサー収入など運営関連の費用に限られ、1000億円程度に留まると予測しています。万が一、強行開催して感染拡大した場合のコロナ対策費用は数十兆円に上ると考えられるので、リスクと費用面を比較すれば経済効果を優先すべきとは到底思えません。
IOC(国際オリンピック委員会)は2021年に開催できない場合、再延期はないとする見解を示しました。感染拡大は2年以上続くとする感染症専門機関の研究結果もある。中止の決断はギリギリであるほどダメージが大きい。結論を先延ばしせず、今すぐにでも中止を決断すべきです。
その上で、五輪で使用するはずだった有明アリーナなどの競技施設を、コロナ陽性患者の隔離施設として有効活用するべきです。そのほうが感染拡大を抑えることになり、自粛要請で経済を止め、協力金などの支出で財政を圧迫せずに済む。結果的に経済の早期回復につながると思います。
【PROFILE】もりなが・たくろう/経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。専門はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。
※週刊ポスト2020年8月28日号