近年、カジュアル化が進行していたビジネスウェア。そこにコロナ禍でテレワークが浸透したことで需要減少に拍車がかかり、紳士服業界はさらなる苦境を強いられている。
業界大手の青山商事は、2021年3月期は売上高が前期比20.9%減の1723億円、最終損益は292億円の赤字(前期は232億円の赤字)を見込んでいる。同社は希望退職に伴う割増退職金など40億円程度の特別損失を計上したことで、赤字が膨らんだ格好だが、同業他社に目をやっても苦しい状況は見て取れる。AOKIホールディングスの2021年3月期決算は、売上高が前期比16%減の1513億円、最終損益が53億円の赤字(前期は4億4700万円の黒字)を見込んでいる。
紳士服業界の苦境に拍車をかけるのが、消費者の意識の変化だ。たとえコロナ禍が収束したとしても、「脱スーツ」の流れが止まるわけではない。
「20数年前に就職した時には、先輩社員たちが青山のスーツを『安い』と言って、こぞって買っていたことを覚えています。私も社会人としてのスタートは、青山で購入したスーツでした。まさかこんな時代になるとは……」
そうスーツの思い出を語るのは、メーカーで働く40代の男性会社員・Aさんだ。コロナ禍で在宅勤務と通勤の半々になったことで、スーツを着る機会が激減した。
「家では、スーツを着る必要がないわけです。職場への出勤日も、一気に自由な服装でいいという雰囲気になりました。だから今、スーツを着る機会は滅多にありません。気温によって服装の調整がしやすいし、ワイシャツをクリーニングに出す手間もコストもなくなる。本当に楽になりました」(Aさん)