コロナ禍でビール各社が力を入れるのが家庭向けの“健康志向”ビールだ。なかでも2020年10月にキリンが開発した“糖質ゼロ”のビール「一番搾り 糖質0」のインパクトは大きい。だが、この4月、同ジャンルにサントリーも「パーフェクトサントリービール」で参戦。熾烈なバトルが始まろうとしている。
糖質ゼロビールのパイオニアであるキリンが勝つか、それとも後発のサントリーが逆転するか。新たなジャンルを切り拓いたヒット商品に他社が追随する──ビール業界では何度も繰り返されてきた歴史だ。
古くは1980年代後半の「ドライ戦争」がある。
1987年3月にアサヒが“辛口”を前面に押し出した「スーパードライ」を発売すると瞬く間に大ヒット。当時のアサヒはシェア10%を割り、大手4社で最下位に転落する危機に陥っていたが、「スーパードライ」の登場で局面は一転した。発売1年でシェアを8%伸ばし、2位に浮上する。
すると各社が「ドライブーム」に追随。1988年2月から「キリンドライ」、「サッポロドライ」、「サントリードライ」が次々と発売された。
『サントリー対キリン』『ビール15年戦争』などの著書があるジャーナリストの永井隆氏が言う。
「ドライ戦争では、他の3社はアサヒに太刀打ちできなかった。ジャンルのパイオニアである強みと徹底的なCM戦略も大きかったが、一番の違いは生産量で圧倒したこと。バブル期で資金調達がしやすかったこともあり、アサヒは茨城に大きな工場を作るなど設備投資で『スーパードライ』の生産能力をいち早く増強していた」
その後、「スーパードライ」は1997年に42年間トップだったキリンの「ラガービール」を抜いてトップブランドに。現在までナンバーワンビールに君臨している。
一方、後発組がパイオニアを逆転したケースもある。
1994年にサントリーは日本初の発泡酒「ホップス生」を生み出すが、キリンが1998年に「淡麗〈生〉」を発売すると、発泡酒の売上1位に。
新ジャンルも、サッポロが2004年全国デビューの「ドラフトワン」で市場を開拓したが、その後はキリン「のどごし〈生〉」、サントリー「金麦」とアサヒ「クリアアサヒ」が圧倒。“3強”を誇っている。