ゲームマニアの間では、攻略が極めて困難なゲームを「無理ゲー」と呼ぶ。いま、多くの人たちが「無理ゲーと化した社会」に放り込まれているのではないか、と指摘するのは最新刊『無理ゲー社会』が話題の作家・橘玲氏だ。そうした事態を招いた背景に、世界的な「リベラル化」の潮流があると橘氏は分析するが、さらには日本の特有の問題もあるという。日本社会が内包する構造的問題について、橘氏に聞いた。
(※インタビュー前半〈「リベラル化」の潮流が若者を絶望に追い込み、「無理ゲー社会」を生んでいる〉の続き)
* * *
「無理ゲー社会」化は世界規模で広がりを見せているが、さらに日本では「超高齢社会」の現実がある。高齢者の年金や医療・介護を支える現役世代の数がどんどん減り、社会保障の財源が逼迫している。
非正規の仕事で収入も少なく、定年になっても微々たる年金しかもらえない。なんとか親の介護はできても、自分には介護してくれる子どもはおらず、どうやって生きていけばいいのか──。こうした不安や不満は、ただの印象論ではない。
名目での給与が増えても手取りが減っているのは、年金をはじめ社会保険料がどんどん上がっているからだ。
「ねんきん定期便」には、自分がこれまで納めた年金保険料の総額と将来の受給見込額が記されている。それを見ると、払った分以上の年金を受け取れるように思えるが、これは「国家の欺瞞」の最たるものだ。
会社員など厚生年金の加入者は、給与明細から天引きされた保険料(本人負担分)とは別に、同額の会社負担分の保険料を納めている。これまでずっと、「サラリーマンは保険料の半分を会社が払ってくれるから得だ」と言われてきたが、なぜか会社負担分は定期便に記されていない。本来の納付金額は(本人負担と会社負担を合わせて)倍になるのだが、これをそのまま記載すると、「収めた保険料の半分しか年金が受け取れない」という実態がバレてしまうので、このような“イカサマ”を堂々とやっているのだ。
政府は今後、非正規やパートなども厚生年金に加入させようとしている。「非正規でも将来の年金が増える」という謳い文句だが、本音は、自分で保険料を払う国民年金では未納率が高くなるので、厚生年金に加入させて給与から天引きさせ、会社に保険料を徴収させようということだろう。
日本の人口構成を見ればわかるように、高齢世代を支えるためには現役世代から搾取する以外にない。その結果、「祖父母の世代に仕送りをする」という共同体意識はどんどんなくなっていき、若者世代は自分たちを「犠牲者」だと考えるようになった。2025年には団塊の世代約800万人が全員75歳以上の後期高齢者となって、負担増にさらに拍車がかかり、この矛盾があちこちで噴き出すだろう。