「相続でもめるのはお金持ちという印象があるでしょう。もちろん、お金持ちにもトラブルはありますが、分割する財産があるだけ解決しやすい。むしろ、財産が少なくて分けにくい家族のほうが、問題がこじれがちです」
そう話すのは『トラブルの芽を摘む相続対策』の著書がある吉澤諭氏(吉澤相続事務所代表)だ。次のような実例を挙げる。
母親が亡くなり、相続人は同居していた長男と離れて暮らす次男の2人。遺産は自宅(評価額4000万円)とわずかな銀行預金のみ。長男は同じ家に住み続けることを望み、次男に銀行預金を全額渡せばいいと考えたが、次男は「遺産を半分ずつにすべき」と主張──。
「金融資産が少ない一方、自宅の評価額がそれなりに高く、かつ遺言書がないケースは、典型的なもめるパターンです。
長男が“母親の面倒を見たし、今の家で家族と暮らしているから自分が相続したい。建物が古くてリフォームにお金もかかる”と主張しても、次男は“それなら2000万円を現金で払ってくれ”となることが少なくない。長男が払えなければ、共有名義にするか、自宅を売却してお金を分けることになる」(吉澤氏)
いくら長男が母親の面倒を見ていたとしても、法定相続分は2人の息子が「2分の1ずつ」という非情な現実があるのだ。
「対策としては、親が遺言書を残すのがベスト。その場合も次男は法定相続分の2分の1(このケースでは遺産の4分の1)を『遺留分』として請求する権利がありますが、4000万円の遺産なら遺留分は1000万円で済む。
次男の遺留分に相当する1000万円については、長男を受取人とする生命保険に加入しておく方法もあります。原則として死亡保険金は遺産分割の対象外ですから、次男が遺留分を請求したら、受け取った保険金で支払うのです」(吉澤氏)
ただし、遺言書ですべて解決するとも限らない。