【最後の海賊・連載最終回・前編】ともに世界に打って出る日本を代表する起業家の楽天・三木谷浩史氏とソフトバンクの孫正義氏。財界の古い企業体質や中央官庁のしがらみを打破してきた二人だが、その「生まれ」と「育ち」は全く異なる。ここでは三木谷氏のビジネスの考え方について、週刊ポスト短期集中連載「最後の海賊」、ジャーナリスト・大西康之氏がレポートする。(文中敬称略)
* * *
佳境を迎えたサッカー・Jリーグ。ACL(アジア・チャンピオンズ・リーグ)出場圏内の3位の座をかけて、サガン鳥栖、名古屋グランパスと鍔迫り合いを繰り広げるヴィッセル神戸を牽引するのはスーパースター、アンドレス・イニエスタだ。世界のサッカーファンが注目するイニエスタのユニフォームの左鎖骨部分、エンブレムの上に注目してほしい。
「Rakuten Medical(楽天メディカル) ガン克服。生きる。CONQUERING Cancer.(がんを制圧する)」
文字が多いのでプレー中に判読するのは難しいが、イニエスタの勇姿が大写しになるたびに、このフレーズは人々の目に触れる。それが人類の福音であることを人々が知る日も、そう遠くはないはずだ。
8月25日、楽天グループの関連会社で三木谷浩史が会長を兼ねる楽天メディカルジャパンのオンライン事業説明会が開かれた。
同社が取り組んでいる頭頸部がんを対象にしたイルミノックス治療(光免疫療法)を提供する施設が1月の20施設から今秋には約40施設に増える。専門的な教育を受け、この治療を実施できる治療医は、8月下旬の段階で97名に達した。今は頭頸部がんにしか使えないが、食道がんや胃がんでも初期の治験に入っている。
がん治療には主に「手術(切除)」「抗がん剤」「放射線」の三大治療法が用いられる。そこに最新の治療法として登場したのが「オプジーボ」に代表される免疫チェックポイント阻害剤だ。この治療法の原理を発明した京都大学名誉教授の本庶佑は2018年、ノーベル医学・生理学賞を受賞した。「光免疫療法」は免疫チェックポイント阻害剤に続く「第五の治療法」と呼ばれるほど注目されている。研究成果が発表された時、当時米大統領だったバラク・オバマが一般教書演説で絶賛したほどだ。
楽天メディカルの前身はアスピリアン・セラピューティクスという米西海岸の医療ベンチャー。その会社に2018年、三木谷が個人で約167億円を出資。2019年には、楽天も企業として1億ドル(約107億円)を追加出資して社名を「楽天メディカル」に改めた。
それにしてもなぜ、ネット企業の楽天ががん治療に取り組むのか。
2013年9月26日、東北楽天イーグルスはリーグ優勝へのマジックを2として西武ドーム(現メットライフドーム)に乗り込んだ。初回、イーグルスが先制。4回にライオンズが逆転。7回にイーグルスが再逆転というシーソーゲームはイーグルスの1点リードで9回裏を迎える。ここで監督の星野仙一は、絶対エースの田中将大をマウンドに上げる。
「ハムが勝ったぞ」