生きるうえで何らかの職に就き、働いてお金を稼ぐことは当然のこと。しかし、選択した職業によっては、命がおびやかされる恐れもあるという。
母親がどの職業に就いているかで、お腹の子を死産するリスクが変化する──そんな驚きの事実が注目されている。日本初の疫学研究を行ったのは、大阪医科薬科大学医学部助教の鈴木有佳さんらの研究チーム。5年分の厚生労働省の人口動態調査から約530万人分のデータを用いて、母親の職業と妊娠12週以降の死産リスクの関係などを解析した。
その結果、死産リスクが最も高い母親の職業は「サービス職」で、「管理・専門・技術職」に従事する女性より1.76倍高かった。2番目は保安や農林漁業、運輸、生産工程に従事する「肉体労働職」(1.54倍)で、以下「販売職」(1.48倍)、「事務職」(1.24倍)の順となった。有職者の中では「管理・専門・技術職」の死産リスクが最低だったが、無職(0.95倍)はさらに低かった。鈴木さんが解説する。
「サービス職は対人業務が多いと考えられ、自分のタイミングで休息を取りづらい一方、肉体労働職は妊婦への身体的負担が重い作業が法的に制限されることなどが、死産リスクに関連している可能性があります。
日本は、女性が妊娠しながら働く社会をあまり想定してきませんでした。これからはすべての職場で働く女性が安心して出産できる仕組みを社会や企業が率先してつくることが求められます」
死産リスクだけでなく、職業はさまざまな健康リスクと関係することがわかってきた。女性の社会進出が進み、共働きが当たり前になるなか、職業と病気の相関関係から何を学ぶべきだろうか。