厚生労働省の「がん罹患数予測(2021年)」によれば、女性の9人に1人が乳がんになると予測されている。治療は手術が中心となるので、全摘術で乳房を失い、喪失感に襲われる人や、乳房部分切除術(温存術)を受けた後の陥没やゆがみに悩む女性は多い。乳房は女性にとって特別なものだけに、失うことで心のバランスを崩すケースも少なくないという。
そうした悩みを軽減するものの1つに「乳房再建術」がある。がん自体の治療ではないが、心身のケアや治療後の生活の質を上げるために効果的で、乳がん手術をした患者の約4割が行っているというデータもある【*】。
【*東京・がん研有明病院の2015年時のデータより(乳がん手術数962、再建術数358)。週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2017」より】
再生医療なら片方で70万円以上
手術には自家組織によるものとインプラントによるものがあり(下記詳述)、全摘術を受けた場合や、遺伝性乳がん卵巣がん症候群患者が乳房切除術を受けた場合は、いずれも保険適用となり、高額療養費制度も活用できるため、費用は8万~10万円ほどに抑えられる。
とはいえ、保険適用内の治療法の場合、インプラントなら10年をめどに、中身を入れ替える手術が必要だったり、自家組織なら、大きな傷痕が残るなどのデメリットもある。
入れ替えの必要もなく、傷痕も少なく、かつ自然な形の乳房を希望する場合は、腹部や太ももなどから吸引して培養した脂肪幹細胞を乳房に注入する乳房再建術もある。この方法は体から脂肪を抜く場合も、それを乳房へ移す際も切開手術を行わないので、体への負担は少なくて済むうえ、乳房部分切除術を受けた後の陥没やゆがみも、解消されるという。
しかし、こうした再生医療を行える医療機関は限られており、保険適用外なので、治療費は全額自己負担となり、片方で70万円以上となる。NPO法人「がんと暮らしを考える会」理事長・看護師の賢見卓也さんが言う。
「どの治療法にしても、大切なのは乳房再建術を希望することを、治療前に主治医に伝えておくこと。それによって切除の仕方が変わったりするからです」