「相続」を巡る制度改正が相次ぐなか、最も注目を集めるのが相続税対策の王道である「生前贈与」のルール変更の行方だ。年間110万円までが非課税となる「暦年贈与」には近い将来、制限がかかると見られている。
というのも、2020年12月に自民・公明両党が公表した「令和3年度税制改正大綱」にはこんな一文が盛り込まれた。
〈相続税と贈与税をより一体的に捉えて課税する観点から、現行の相続時精算課税制度と暦年課税制度のあり方を見直すなど、格差の固定化の防止等に留意しつつ、資産移転の時期の選択に中立的な税制の構築に向けて、本格的な検討を進める〉
つまり、国は富裕層が生前贈与の仕組みを使って節税していることを止めようと考えているのだ。
来年度の税制改正への議論はまさに進行中だ。税理士法人レディング代表の木下勇人氏は「110万円の非課税枠は当面維持される見通し」としたうえで、“贈与の非課税特例”がどうなるかに着目する。
「子や孫への贈与が非課税になる『教育資金の一括贈与』や『結婚・子育て資金の一括贈与』は期限が延長されて2023年3月31日までの適用となったが、富裕層優遇との批判の声が上がっていることから、期限を迎えたら廃止・縮小の可能性が高い。今のうちに活用を考えるのも選択肢でしょう」
制度改正が目前に迫っているのであれば、対策が急務となるのは当然だろう。多くの関係者が注視しているのが、今年12月に与党が公表する税制改正大綱の内容というわけだ。
税制改正大綱をまとめるメンバーのひとりである公明党の西田実仁・税制調査会会長に、議論をどう進めていくのかを問うた。
西田氏は「これまで何年も『資産移転の時期に中立的な税制』を目指す検討を進めてきたが、いよいよ方向性を出さなければならないと考えている」と話した。
それはつまり、生前の贈与か、死後の相続かという「資産移転の時期」によって発生する税金が変わるという状況を改めるということである。
「暦年贈与をなくすということは考えていないが、格差の固定化を防ぐという観点では、相続財産に加算する3年という持ち戻し期間をもう少し延ばしていく方向が必要と考えています。
併せて、資産移転の時期に中立的ではあるものの使い勝手が悪い相続時精算課税制度を使いやすいものに改善していくことも必要でしょう。老年から若年への世代間の資産移転を進めていくことも重要ですから」(西田氏)