「私には貯金の習慣がない」と公言してきた『女性セブン』の名物記者・オバ記者こと野原広子さん(65才)。とかく50~60代の女性は、夫の定年退職や親の介護などでお金が入り用となって苦労するが、野原氏は「まとまったお金がなくてもやりくりできるし、毎日、幸せに暮らせている」と言う。
行動経済学に詳しい昭和女子大学現代ビジネス研究員の橋本之克氏との対談形式で、オバ記者の消費行動をひもとく。今回は、65年前にアメリカのジョンズ・ホプキンス大学で行われた、ラットに関する実験から始まる──。【全3回の第2回。第1回から読む】
【実験1】
(1)ラット(動物実験に用いるシロネズミ)を1匹ずつガラス瓶に入れる(瓶の内側はツルツルしていて、よじ登れない)。
(2)瓶を水で満たす。
(3)ラットが命懸けで泳がなければ、上から水を噴射して沈めようとする。エサも、休息も、逃げるチャンスも与えられないまま、ラットはどのくらい泳いだか?
オバ記者:何、この実験。動物虐待じゃない! 私は3年前に、19年連れ添ったネコを看取ったんだけど、ネズミになんの恨みもありませんよ。
橋本:お気持ちはよくわかります。私もそう思います。でも、もし野原さんがこれと同じ状況にいたらどうしますか?
オバ記者:私がもしここまでやられたら、研究者の期待になんか応えてやるもんか。どうやって楽に死んでやろうか、としか考えないわね、多分。
橋本:確かにこの状況は助かる見込みはなさそうです。そんなとき、人は(生物は)どうするかというと、選択をやめてしまいます。「ほかの選択肢を探してみる」「別の方法があるかもしれないと思いを巡らす」ということをしなくなる。
オバ記者:フン、何もできないなら寝てりゃいいのよ。こうすれば助かるかも、と溺れながら必死に考えて、それでもダメだったら目も当てられない。むしろ、なまじ選択肢があったら、そっちの方が厄介よ。
だって、人生だってそうでしょ。みんなが大学に行くようになって、勉強すればするほど人生が有利になると思ってあれこれやってみようとするんだけど、実際のところ、うまくいってる人なんて多くない。学歴=輝かしい未来なんて、そう単純じゃないよ。学歴社会を歩んでこなかった私にはそう見える。
橋本:幻想ですか。
オバ記者:そう。多くの人にとってはね。でもね、たいしてうまくいかないとはいえ、最初からあきらめて選択すらしなかったら、今度は「何も選ばなかった自分」を責めるんだから、人間って困ったもんだよね。
橋本:それはありますね。行動経済学でいう「後悔の回避」。後悔を避けたいという思いが決定に影響を与える心理です。
損することを最初から回避しようとするわけですが、これには「やった後悔」と「やらなかった後悔」の2種類があります。やった後悔は「失敗した」という気持ちや悔やむ気持ちが大きい。そのぶん、「あの失敗は二度と繰り返さない」と次の手を打てるようになります。でも、やらなかった後悔は、そのときは傷つかないものの、気持ちを長く引きずるから後悔度は大きい。明確な改善点もわからないから、人生の糧にもならない。
恋愛もそうですよね。告白してフラれたら「言わなきゃよかった!」と悔やむけど、だんだんあきらめがつく。でも、気持ちを伝えないままだったら、「あのとき、もしかしたらうまくいったかも!?」と延々と考えてしまう。
オバ記者:あら、やだ。先生、いきなりいい球投げてくるわね~。
橋本:ハハハ。