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森永卓郎氏が「2022年のベスト本」を解説 岸田政権下で強化される弱肉強食化政策

『コロナショック・ドクトリン』(松尾匡・著)に何が書かれているのか

『コロナショック・ドクトリン』(松尾匡・著)に何が書かれているのか

 コロナ禍で社会は大きく変わったが、その裏で過激な弱肉強食化政策が進んでいる──。話題の本『コロナショック・ドクトリン』(松尾匡・著/論創社)を、経済アナリスト・森永卓郎氏はどう読んだのか。

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 本書は、コロナ禍のドサクサに紛れて進行する弱肉強食化政策に警告を発するために緊急出版されたものだ。緊急出版だから、本書は十分推敲された著作にはなっていない。同じような分析が再び登場したり、世間で円安が問題になっているなかで、円高政策による生産拠点の海外移転を批判したりしている。しかし、そうした細かな点を踏まえても、本書は2022年に出版された書籍のなかで、ベストの作品だと思う。

 ショック・ドクトリンというのは、2011年ジャーナリストのナオミ・クラインが著した書籍のタイトルだ。それは、惨事便乗型資本主義を意味し、戦争や自然災害など、経済や社会を揺るがす大惨事に乗じて行われる過激な市場原理主義改革を意味する。著者は、それがコロナ禍で起きていると主張している。

 中小企業をつぶして、労働市場を流動化することで多くの労働者を低賃金労働に追い込む一方で、大企業のための政治・経済体制を確立する。緊縮財政で福祉を削る一方で、官僚の裁量でお友達企業を優遇し、さらに原発や軍需企業の利権を徹底的に守ろうとする。

 本書は、安倍、菅政権時代の政策を中心に分析を進めているが、実は岸田政権になって、ウクライナ戦争を背景にして、ショック・ドクトリンはさらに強化されている。例えば、安倍政権でも言い出さなかった敵地攻撃能力の保有や防衛費の倍増、原発の稼働期間延長と新増設、60歳代前半層への国民年金保険料支払い義務化、リスキリングの強化に伴うリストラ容認姿勢などだ。現時点でみれば、今行われているのは、コロナ・ウクライナショック・ドクトリンと言えるのかもしれない。

 私が一番問題だと感じるのは、これだけ過激な弱肉強食化政策が採られているにもかかわらず、メディアが十分な反応をみせていないことだ。だから、日本の経済社会で本当に起きていることを知るために、本書は貴重な証言者になっているのだ。

※週刊ポスト2023年1月1・6日号

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