多くの人の一生は仕事とともにある。それゆえ、「職業と寿命」に関する研究や調査も多くなされてきた。
2019年、東京大学の研究チームは、日本と韓国およびフランス、イタリア、イングランドなど欧州8か国の職業階層別死亡率(1990~2015年)を調べた論文を発表した。
35~64歳の働く男性を、「上級熟練労働者(管理職・専門職)」「下級熟練労働者(事務・サービスなど)」「非熟練労働者(工場や運輸など肉体労働系)」などに分類。心疾患などでの死亡率を比較した結果、欧州8か国では「肉体労働系」の死亡率が最も高く、「管理職・専門職」の死亡率が最も低いと示された。
ところが日本の場合は、「管理職・専門職」の死亡率が、「肉体労働系」や「事務・サービスなど」を上回ったのだ。
この結果について、産業医科大学教授で医師の江口尚氏はこう推測する。
「欧米の管理職は待遇がよく、健康面に配慮した生活を送れますが、日本は1990年代のバブル経済崩壊後、労働市場における管理職が減少したことで、要求される仕事や責任が増えたかたちになりました。
実際、同論文内でもバブル経済崩壊から間もない1990年代後半から『管理職・専門職』の死亡率が上昇していると報告されています。労働環境が悪化する一方で給料はさほど上がらず、ストレスなどの心理的苦痛が増幅していった結果、死亡率が高くなったと考えられる」
寿命が長いとされる職業
具体的な病気による死亡率を職業別に調べた研究もある。前出の江口氏らは、厚生労働省の人口動態職業・産業別統計(2010年)を利用して、25~64歳の日本人男性を対象に3大がん(肺がん・胃がん・大腸がん)の死亡率と職業の関係を調査した。
その結果、職業別の死亡率は「管理職」が最も高く、日本で最も従業者が多い「製造業」の死亡リスクを1とした場合、3大がんで死亡するリスクは2.42~3.49倍に達した。