今年も中学受験シーズンのピークが過ぎた。首都圏の私立・国立中学校の受験者数は 8年連続で増加を続けており、2022年には5万人を超えて過去最多の水準となっている(「首都圏模試センター」の推定)『中学受験 やってはいけない塾選び』などの著書があるノンフィクションライターの杉浦由美子氏によると、「地元の公立中学をどうしても避けたいという理由から中学受験をする例も多い」という。中学受験を選択する家庭の事情について、保護者へのインタビューをまじえつつ、レポートする。
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「かつてならば、全部で不合格だったから公立中学に進学し高校入試でリベンジするというケースが多くありました。ところが今は追加で受験してでも、どこかしらの私立中学に進学をします」(大手塾社員)
特に関東はその傾向が強く、そのため、中堅校の入試が難しくなっている。一昔前ならば、御三家が本命だと偏差値55以下の学校を受けないのが普通だったが、今は受験することも多々ある。体調が不調でも必ず受かる学校をおさえたいからだ。
なぜ、そうなっているかというと、ひとつは中堅の私立中学は教育内容がよく、「御三家のようなステイタスがなくても進学させる価値がある」と保護者が判断するからだ。しかし、もっと切実な理由がある。「どうしても地元の公立中学を避けたい」と考えて、中学受験をするケースも増えているのだ。
私が中学受験をした1980年代は不良文化全盛期で、地元の公立中学の校門の前でリーゼントヘアの男子学生が煙草をふかしていた。それを見たら「この中学では私はやっていけそうもないから中学受験をしよう」と思ったわけだ。しかし、現在の少子化でそんな不良が大きな顔をしている公立中学は滅多にないはずだ。少子化の中、公立中学も生徒ひとりひとりに配慮をしている。
それでもわざわざ私立中学に行かせようというのは贅沢な行為だという指摘もあろうが、中学受験生の家庭のすべてに経済的な余裕があるわけではない。実際、私立中学の生徒の家庭のうち47.7%は世帯年収800万円以下で、27.9%は世帯年収600万円未満である(文部科学省「子供の学習費調査」平成30年公表)。世帯年収600万円だと手取りが470万円ほどで、私立中学の平均的な学費70万円を支払い、住宅ローンや生活費を考えると余裕がない。つまり、カツカツでも私立中学に子供を通わせる層がそれなりの数いるのだ。
それでもなぜ、公立中学を避けたがるのか。今回は千葉の「公立小学校や中学の評判がいい学区」に住む40代女性・Aさんの話をもとに考察してみよう。