近隣に蕎麦を配る文化はこのまま廃れていくのか
飲食店に勤務する20代男性・Dさんが、職場の同僚たちに引っ越しを手伝ってもらった時のこと。40代の先輩が冗談めかして言った「引っ越しなら、引っ越し蕎麦だよな~」という言葉に驚いた。
「一段落ついたので、お礼も兼ねてピザでも注文しようかなと思ったら、『引っ越し蕎麦』というワードが出てきて、マジでびっくりしました。なんでわざわざ蕎麦なのか全然わからないまま、みんなで蕎麦屋に行きました。年越し蕎麦みたいな感覚で、新居で長~く良いことがありますようにという願掛けなのかな?と思いました」(Dさん)
不思議に思ったDさんが、ネットで調べてみたところ、引っ越し蕎麦とは、「江戸中期頃に江戸を中心に始まった風習」だということを知った。
〈それまでは小豆を使った粥やお餅を配っていたようですが、それではちょっとした挨拶なのに丁寧すぎやしないか?という思いと、もっと安上がりな挨拶はできないか?という思惑から、安値のそばに白羽の矢がたったようです。向こう三軒両隣と大家さんにそばが配られました。近くの意のそばにひっかけ「おそばに末長く」、またそばの形態から「細く長いお付き合いをお願いします」といった意味合いは後からつけられたようで、本音は安くてうまくて喜ばれるといったことが第一だったようです。〉(日穀製粉のホームページより)
Dさんが続ける。
「結局、引っ越し蕎麦って、挨拶として蕎麦を配るというものだったんですね。同僚は、本来の意味はよくわかっておらず、なんなら引っ越した本人が食べるものだと思っていたようです。それはそれとして、僕は隣の人に蕎麦を配るどころか、挨拶をする予定もありません。もし、住んでいる間に顔を合わせることがあれば挨拶をする、というスタンスでいいんじゃないかなと思います」(Dさん)
かつては引っ越し時は挨拶するのが当たり前だったかもしれないが、時代の流れとともにそうした慣習も失われつつあるのかもしれない。(了)