新生活が始まるこの時期。引っ越しで新たな住まいに移る際には、トラブルはつきものだ。最近は「鍵」にまつわるトラブルも多く、「鍵の引き渡しが早かった」ということで、想定外の出費を迫られたケースもあるようだ。いったい何が起こったか。住宅ジャーナリストの日下部理絵さんが、実例をもとにその問題点を解説する。
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この春、新生活のため賃貸物件を借りた(借りる)人も多いであろう。そんな賃貸物件をめぐり鍵の引き渡しトラブルが続出しているという。
男性・Aさん(22歳)もトラブルに巻き込まれた1人だ。Aさんは就職のため、この春に地方から都内のワンルームマンションへ引っ越してきた。契約する入居日は4月1日からだったが、入居日の1週間以上前に不動産屋から郵送で“鍵の引き渡し”を受けた。
鍵については、契約時に不動産屋から「紛失すると個人では交換できないので、くれぐれも無くさないように」と説明があった。実際に鍵を手に取ると、Aさんの実家の鍵とは違うタイプの鍵であった。
Aさんの実家の鍵は、両方にギザギザがついた「ディスクシリンダー錠」タイプで、駅などにある店舗でもスペアキーが手軽に作れる。しかし、構造が単純なため、ピッキングが容易ともいわれる。
一方で借りたマンションの鍵は、「ディンプルシリンダー錠」というタイプ。ディンプルは英語で凹みを意味しており、鍵の両面に大きさの異なる凹みがついているのが特徴だ。ハイセキュリティシリンダーといわれるほど防犯性が高いといわれる。エントランスにはオートロックも付いており、実家とのセキュリティの違いに驚き、「これなら安心して暮らせそうだ」と感じていた。
Aさんは予定日より早く鍵を受け取れたため、引っ越しの予定も早めて3月25日から住み始めた。引っ越しの荷解きも順調に終わり、27日には同じく都内に就職した彼女が遊びにきてくれた。そんなAさんカップルを悲劇が襲う。
久しぶりに彼女とお楽しみの時間を過ごしていたところ、玄関から物音がして突然ドアが開いたのだ。幸いチェーンをしていたため、ドアは全開にはならなかったが、セキュリティが強いはずの鍵がなぜ開いたのか……。考えるまもなく今度はインターフォンが鳴った。
慌てて服を着てモニターを見るとそこには女性が映っていた。怪訝そうな表情をする彼女。“違う違う”と小刻みに首を横に振りながら、インターンフォン越しに話をしたところ、なんとその部屋のオーナーだったのだ。