長年連れ添った夫婦が別れを決断する熟年離婚が増えている。厚生労働省の令和4年度「離婚に関する統計」によると、2020年に離婚した夫婦のうち、20年以上同居した夫婦の離婚の割合は21.5%と、過去最多を更新している。
熟年離婚では、別れた当人たちの人生にも大きな変化があるのはもちろんだが、子供がいるケースも多く、そこへの影響も見逃せない。親の熟年離婚で苦労したという子供たち、に話を聞いた。
絶対に浪人できないというプレッシャー
30代男性・Aさん(広告代理店勤務)の両親は、ともに50代のときに熟年離婚した。原因は父の借金、酒癖の悪さ、家事・子育てへの不参加だった。Aさんが、「両親は離婚するだろうな」と薄々感じ始めたのは、中学生時代のある夜のことだった。
「夜中に目が覚めて、『ズ、ズシャ……』という鈍い打撃音のような音が聞こえてきました。音がする方に行ってみると、キッチンで、母が泣きながら柱に包丁を突き刺していたのです。あまりの光景に、話しかけられませんでした……。夢だと信じたかったんですけど、朝、柱を確かめてみると、生々しい刺し傷がたくさんありました」(Aさん)
そうした兆候もあったので、高校生になって、いざ母親から「いずれ離婚するつもりだ」と告げられても、あまり驚かなかったというAさん。ただ、進路選択はその離婚計画に振り回された。
「僕が大学に進学してから、離婚する予定だというのです。つまり母の計画の都合上、浪人は歓迎されないということ。お金の関係から、浪人したら大学に進学できなくなる可能性もありました。第一志望の大学は落ちてしまいましたが、複数受験したなかで一校だけ受かり入学しました。あんなハラハラすることは、もう二度と経験したくないです」(Aさん)