東京オリンピック・パラリンピックをめぐる談合事件では、広告代理店・電通グループおよび同社の子会社・電通の元幹部が独占禁止法違反の罪で起訴された。経営コンサルタントの大前研一氏は「これらは氷山の一角にすぎない」と断じる。過去の大規模な国際イベントや国家事業は、電通をはじめとする広告代理店抜きに成り立たなかったというが、今後はどうあるべきなのか。大前氏が提言する。
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「極めて重大な事態を発生させ、多大な心配をかけたことをおわびする」
国内最大手の広告代理店・電通グループの五十嵐博社長は3月末の定時株主総会で、こう謝罪した。東京五輪・パラリンピックの大会運営事業を巡る談合事件で、同社および同社の子会社・電通の元幹部が、東京地検特捜部に独占禁止法違反(不当な取引制限)の罪で起訴されたからである。
東京五輪に絡む一連の事件では、電通の元専務やスポンサー企業の経営トップらも受託収賄・贈賄罪で起訴されているが、これらは氷山の一角にすぎない。過去の五輪や万博などの大規模国際イベントはすべて同じ構図であり、2025年の大阪万博、札幌が立候補を検討している2030年の冬季五輪も電通をはじめとする広告代理店抜きには成り立たないのが実情だ。
もとより企業の大半は、CMの制作やイベントの運営などを電通などの広告代理店に依存している。国会議員・地方議員も選挙の政策パンフレットやポスターの制作は広告代理店頼りだ。一方で、広告代理店はマスコミを含む大手企業の幹部や議員の子女を縁故採用している。要するに、広告代理店と企業や政治家は“ズブズブの関係”なのである。
それどころか、国家事業の多くも広告代理店に依存している。記憶に新しいのは新型コロナウイルス対策の「持続化給付金」事業だ。経済産業省は電通や人材派遣業のパソナ、サービス業のトランスコスモスなどが設立した一般社団法人「サービスデザイン推進協議会」に769億円で業務を丸投げし、同法人が749億円で電通に再委託し、さらに電通がパソナやトランスコスモスなどに業務を外注していた。国の委託費の大部分を“身内”の3社で分け合っていたのである。
“電通独占”にメスを入れよ
なぜ、これほど国家事業において特定の代理店が跋扈しているのか? 業務を発注する側の役所・役人に全く事業執行能力がなく、指示・監督もできないからだ。多数の人手が必要な案件のアウトソーシングは仕方がないが、代理店に丸投げした後、その経過をチェックし、成果を検証していないのは怠慢と言わざるを得ない。
そして、五輪などの大きな案件は電通がほぼ独占してきた。いわば電通は日本の行政を動かしている“裏の仕掛け”なのである。他の代理店は力不足で任せられないという指摘もあるが、国家事業のアウトソーシングに健全な競争がないことは極めて大きな問題である。