したがって、東京五輪を巡る談合事件を機に、電通の独占体制にメスを入れなければならない。五十嵐社長は定時株主総会で「企業風土の刷新を含む再発防止策を徹底する」「コンプライアンス(法令順守)の徹底で信頼の回復に努める」と述べたが、その程度の対策で長年しみついた体質が改まるとは思えない。独禁法違反の罪で起訴された以上、電通グループは分割・解体されて然るべきだが、そうならないのであれば、司法は電通に対して厳しい罰則を設けるべきだと思う。
たとえば、国家事業で今回のような問題を再び起こしたら、社長をはじめ役員以上の首がすべて即座に飛ぶようにする。また、OBの犯罪でもそれに電通が絡んでいた場合は、選挙のように「連座制」を適用する。OBたちは現役時代の人脈を使って電通の利権を支える“別働隊”だからである。
そこまで踏み込まないと「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、電通という“裏の仕掛け”は温存され、元の木阿弥になるだろう。テレビ局なども、番組を1年も前から丸抱えしてくれる電通の批判や悪口は言えない。
今回の電通を巡る事件が1つずつ謎解きのように進行したのはマスコミが踏み込めなかったからである。
だから贈賄側(企業側)の記事ばかりあふれ、電通が最後にあぶり出された段階で「一件落着」のごとく急に記事が萎んでしまった。
ここに電通を巡る一連の事件報道の問題があり、国会や行政の切れ味不足の原因がある。今こそ日本政府の「代理店依存」を正す絶好の機会であり、追及の手を緩めてはならない。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『第4の波』(小学館)など著書多数。
※週刊ポスト2023年5月5・12日号