2024年には年金制度の5年に一度の「財政検証」が発表される。年金財政の収支の見通しが公表され、それに伴って年金制度の改正などが行なわれる。近年の年金制度の見直しで注目を集めてきたのが国民年金の「第3号被保険者」の扱いだ。会社員や公務員に扶養される専業主婦を念頭に置いた制度として1985年に創設されたものだが、40年近くが経過し、制度開始当時の趣旨と現実にはズレが生じている部分もある。
厚生年金に加入する会社員など(第2号被保険者)に扶養される配偶者は「第3号被保険者」となる。基本的には専業主婦が将来、年金を受け取れるようにするために創設された制度で、会社員の夫が厚生年金に加入していれば、保険料を自ら支払わなくても保険料納付済期間として扱われる(20歳以上60歳未満が対象)。
パートで働いている場合も一定水準以下の収入であれば、配偶者の扶養からは外れずに第3号被保険者として扱われるが、近年はその「条件」がどんどん厳しくなってきた。ベテラン社会保険労務士が解説する。
「週の所定労働時間が20時間以上、賃金月額8.8万円以上などの条件を満たすと第3号被保険者ではなく、自ら厚生年金に加入する第2号被保険者になる必要がありますが、この条件で強制加入となる企業規模の要件が年々、厳格化されてきました。2022年10月からは従業員101人以上の企業が適用対象になったばかりですが、2024年10月からはこれが51人以上の企業へとさらに広がる。『厚生年金の適用拡大』と呼ばれる動きです」
専業主婦世帯と共働き世帯の世帯数の推移
要は第3号被保険者を縮小しようという動きとも言えるが、政府がこうした制度変更に動く背景には、「会社員+専業主婦」というかたちの家族が年々減少しているということもあるだろう。
3月28日に開かれた厚生労働省社会保障審議会の年金部会の資料によれば、第3号被保険者制度が創設された1985年時点では、専業主婦世帯が936万世帯だったのに対し、共働き世帯は718万世帯(妻が64歳以下の世帯)。それが1990年代になると拮抗するようになり、2000年代以降は共働き世帯のほうが明らかに多くなった。2021年時点では専業主婦世帯が458万世帯に対し、共働き世帯は1177万世帯にのぼる。自民党関係者はこう言う。
「家族の在り方が変わったのに、年金制度がそのままでいいのかという問題意識はある。共働き世帯は増えたが、妻がフルタイムである世帯よりも、妻がパートである世帯のほうが顕著に増えているというデータもある。その一因として、パートをしながら就業時間を抑えれば、第3号被保険者のままでいられて社会保険料を負担せずに済むという意識があるのだろう」
これはいわゆる「年収の壁」と呼ばれる問題だ。従業員101人以上の企業においては、前述の賃金月額8.8万円=年収106万円を超えると、厚生年金など社会保険に加入する必要があり、「壁」を越えると保険料の天引きでかえって手取りが減ってしまう現象が起きるのだ。夫婦共働きが増えたものの、「第3号被保険者」という“お得な制度”があるために、妻が労働時間や収入を増やさないようにしているのではないか、という見方である。