田代尚機のチャイナ・リサーチ

世界的「スマホ不況」が止まらない 市場の成熟に加え技術革新も頭打ち、半導体産業は窮地に

世界的にスマホ出荷台数が減少している背景とは(中国・広東省。Getty Images)

世界的にスマホ出荷台数が減少している背景とは(中国・広東省。Getty Images)

 世界的な「スマホ不況」の背景に何があるのか──。米国のIT専門調査会社・IDCは4月27日、2023年1-3月期における世界のスマートフォンの出荷台数は14.6%減少し、2億6860万台であったと発表した。これで前年同期比で7四半期連続減少となり、過去最大の減少率となった2022年10-12月期の18.3%減に続き、2四半期連続で二桁の減少率を記録した。

 通年ベースでみれば、2022年は前年比で11.3%減少している。これは2013年以来の低水準であり、足元での減少はもはや一時的なものとは言えそうにない。

 携帯電話全体について、国際電気通信連合(ITU)が発表するG20各国の普及率(契約者数÷人口)をみると、2010年の段階では19カ国中9カ国しか100%を超えておらず、日本、フランス、米国、カナダなどの先進国や、中国(63.72%)も100%を下回っていた。それが2014年には14カ国で100%を超え、2017年には市場規模の大きな中国も100%を超えている。2021年のデータでは、日本は163.17%、中国は121.54%に達しており、最も低いインドでさえも81.99%まで比率を高めている。

 携帯電話の統計ではあるが、中身の性質は10年前とは大きく変化している。直近でG20のほとんどの国で、既にスマホへの移行を終えている。複数台を持つ需要が高ければ別だが、中国などでは本土メーカー品は普及機種でもSIM2枚を搭載できるモデルが主流となっている。つまりスマホ市場は成熟しており、台数ベースでの伸びは代替需要によって決まるような状況となっている。

2年で買い替え続ける消費者は減っている

 台数ベースでの長期的な成長が期待できない中で、メーカー各社は競争に打ち勝ち、1台当たりの利益を引き上げるために、カメラの解像度を上げたり、液晶画面の見やすさを高めるなどの工夫を凝らしているが、そうした努力も多くの消費者の要求水準に達している。サムソン電子や、中国本土系メーカーが上位機種として折り畳み式を売り出しているが、消費者の反応はいまひとつだ。ハード面に関する改善の余地は小さくなっている。

 革新的技術進歩がみられない中で、耐久性は高まっており、1台を長く使い続ける消費者は増えている。また、高機能化により平均単価が上昇している点も見逃せない。2年で買い替え続けられる消費者はこれまでよりも減っているだろう。

 需要面では新型コロナ禍の影響が残る中で、世界的なインフレの進行と欧米の利上げによりグローバル経済の見通しが悪化している。たとえ2023年後半から2024年にかけて在庫調整が終わり、スマホの出荷台数が回復に向かい始めたとしても、それは自律回復の範囲内に過ぎないだろう。

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