田代尚機のチャイナ・リサーチ

中国でAIを使ったなりすまし詐欺が多発 家族や友人も見分けがつかない「顔・声・話し方」で巨額被害も

AI技術の進展が新たな詐欺を生んでいる(イメージ。Getty Images)

AI技術の進展が新たな詐欺を生んでいる(イメージ。Getty Images)

 中国では5月に入りAI詐欺の話題がネット上で広く拡散している。きっかけとなったのは、内モンゴル自治区包頭市政府公安局(通信ネットワーク犯罪捜査局)が微信(WeChat)上で公表したAIを使ったなりすまし詐欺事件だ。

 福建省福州市のハイテク民営企業の男性社長は4月20日昼、微信ビデオ通話の呼び出しがあり応答すると、それは親しい友人からであった。その友人からは「現在、入札に参加しており430万元(8514万円、1元=19.8円で換算、以下同様)の保証金が必要だが、送金は法人口座間でなければならず、口座名義を貸してほしい」と頼まれた。親しい友人であったので、手助けすることにした。

 男性社長はまず、自分の口座情報を友人に伝えた。すぐさま友人は「微信支付(WeChatを使った決済サービス)を通じて430万元を送金した」という送金証明(おそらく偽造したスクリーンショット)を送り、それを見た男性社長は、指定された先方の法人口座に資金を送金した。この間、すべての作業は、相手からかかってきた微信ビデオ通話とそのチャットを通じて行われた。

 取引を終えてすぐ、あらためて友人の微信に「処理はうまくいったよ」と一文送ったところ、その友人からの応答は「?」であった。不信に思い電話を掛けたところ、友人はそんなことは頼んでないという。

 すぐさま警察に通報し、警察は銀行に引き出しを止めるように指示した。それで336万8400元(6669万円)分は引き出されずに済んだが、残りの93万1600元(1845万円)はすでに引き出されてしまった後であった。当局は現在、全力で資金の行方を追っているそうだ。ちなみに、詐欺にかかって資金を盗まれるまでにかかった時間はわずか10分足らずだったという。

親元を離れた娘からのビデオ通話で…

 ビデオ通話に映し出される友人の顔も声も、まさに友人そのものであれば、詐欺を疑うのは難しい。中国の民間企業の経営者たちは常日頃、微信支付を使って公私の別なく、多額の資金をやり取りしているのだろう。改めて、中国ビジネスマンのフットワークの軽さに感心させられるのだが、やはりそれ以上に驚かされるのは、犯人のAI技術水準の高さ、最新技術の普及の度合いだ。

 友人が、金融商品販売などを装った電話勧誘のおとりに応えてしまい、声の情報を盗まれていたのかもしれない。いろいろな角度から多数の写真を盗撮されていたのかもしれない。最も可能性が高いと思われるのは、個人情報、おそらく微信上の内容が漏れていたということだ。

 友人の微信上には自分の写真、声として残した書き込み、交友関係の詳細情報が無数にあったはずだ。そこから、親密な関係で資金力のある男性社長がリストアップされ、このような事件が起きたのだろう。

 こうしたAIを使った詐欺は珍しいことではなく、最近頻繁に起きているようだ。中国本土では、いくつも具体的な事件内容が報道されている。一例をあげると、親元を離れて大学に通う娘から両親に微信ビデオ通話を通して生活費無心の連絡があり、その場で微信支付を通じて2000元(3万9600円)を送金したところ、数日後にまた娘から同じ趣旨の連絡があった。おかしいと思い、こちらから再度娘に連絡してみると、娘はこちらから連絡した覚えはないという。

 両親ですら見抜けないレベルの偽物の顔、声、話し方を最新のAI技術は簡単に作り出してしまうようだ。

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