中島氏によれば、働き手を求める企業側では「シニアの非正規」の需要が大きいのだという。
「企業側はシニアの採用に際して“即戦力”であることを求めます。新人はイチからの教育が必要ですが、他の職場でキャリアを積んできたシニアにはすぐ活躍してもらいたい。ただ、採用後に思ったような働きをしてくれないシニアもいます。自社にマッチしているか、まずは派遣などの非正規で採用し、しばらく様子を見たいという思いが企業側にはあるのです。それだけに、シニアの側が正規雇用にこだわると、チャンスを逃してしまうことがあるのです」(中島氏)
シニア世代の労働市場で非正規雇用が多いのは事実だ。総務省が発表した労働力調査(2022年)によると、非正規職員・従業員の割合は全世代では36.9%だが、65歳以上に限ると76.4%に跳ね上がる。この数字だけを見ると、“シニアの労働力が安く買い叩かれている”というデータにもとらえられるが、前出・中島氏によれば、シニアの側にも正規採用にこだわらないメリットが大きく2つあるという。
「1つは、希望の条件を満たしやすいというポイントです。職種や給与、勤務時間などについて、シニア層の希望する条件を満たせる人員募集は、正社員よりも非正規のほうが多いという現実があります。最初から正社員狙いばかりだと、自分に合った募集を見逃してしまうことになりかねない。また、60歳以上は、派遣3年ルール(派遣社員が同じ事業所の同じ部署で就業できる期間は、派遣就業開始日から原則3年までとする労働派遣法の決まり)の対象外となります。正社員として重い責任を負わされるより、派遣社員のまま同じ職場で安定して働き続けたい願う人にとってはプラスにとらえられる材料でしょう。
もちろん、それだけだと“まだバリバリ働きたい”という人は不満でしょうが、もうひとつのメリットとして、『入り口は派遣で、最終的には正社員を狙う』というステップアップが目指せる点が挙げられます。派遣社員として働きながら新しいスキルや経験を身につけ、正社員として採用される可能性を高めることは60代以降でも十分に可能です」(中島氏)