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大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

世界に後れを取る日本の半導体産業に大前研一氏が提言「製造にこだわって工場整備するのは間違っている」

強い分野を磨くしかない

 日本政府は1991年の第2次日米半導体協定で「日本の半導体市場における外国製のシェアを20%以上にする」と約束した。

 しかし、アメリカには軍事用のチップしかなかったため、日本が必要としていた民生用は韓国に技術供与して、韓国製を輸入するしかなかった。正規の技術提携だけでなく、日本企業のエンジニアが“アルバイト”で毎週末にソウルへ飛び、韓国企業に技術を教えた。それがその後のサムスン電子などの台頭による“半導体敗戦”を招いたのである。

 とはいえ、半導体産業の中で日本企業が依然として強い分野はまだある。半導体素材(シリコンウエハーやフォトレジスト)の信越化学工業、半導体製造装置の東京エレクトロンやディスコなどである。これらの素材や装置がないと、TSMCもサムスン電子も半導体を製造することはできない。開発に10年かかる分野は日本企業の得意技であり、そこに絞って技術を磨いていけば、日本は海外勢に大きく後れを取っている半導体の開発・製造に税金を使わなくても、世界の半導体産業の中で存在感を増すことができるはずだ。

 産業は安い労働コストと市場を求め、国境を越えて移動する。たとえば、繊維はイギリスからアメリカ、日本、韓国、インドネシア、中国に移り、現在はバングラデシュなどに行っている。家電も自動車も半導体も同じである。だから、国力を維持するためには常にITやAIなどの新しい産業を興していかねばならないのだが、今の日本はそれらもすべて滞っている。

 世界で繁栄しているのは国全体ではなく、メガリージョン(大都市圏)だ。たとえばアメリカはシリコンバレーやサンフランシスコ・ベイエリア、中国は深センと広州と北京の中関村、インドはバンガロールとプネーとハイデラバードである。

 日本は落ちぶれてしまった半導体製造そのものにこだわって北海道や熊本などに点々と工場を整備するのではなく、いま強い国際競争力を持っている半導体製造装置や半導体素材、電子部品、あるいはアニメやゲーム関係などに集中したメガリージョンを形成し、世界からヒト・モノ・カネ・情報を呼び込むべきなのだ。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。ビジネス・ブレークスルー(BBT)を創業し、現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『世界の潮流2023~24』(プレジデント社刊)など著書多数。

※週刊ポスト2023年7月14日号

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