兵器の供給にも影響か
米国としては、あくまで対中強硬策を続けるのであれば、早急にこれら金属製品の代替供給先を確保する必要がある。ゲルマニウムに関しては米国が世界最大の埋蔵量を誇るが、1984年以来、国防備蓄資源として保護対象に指定されており、ここ数年、米国内では生産されていない。低コストで効率よく精錬する技術は中国企業内部に蓄積されているが、今回の決定によって今後、関連する精錬技術の輸出にも規制がかかることになる。結局、供給量、価格の両面から考えて、米国が今後、精錬を再開させることはほぼ不可能だ。同盟国に任せるとしても、同じ問題が生じる。こうした状況はガリウムでも同様だ。
もっとも心配されるのは、米国がさらに別の対中強硬策を打ち出すような形で対抗した場合、中国が世界最大の埋蔵量、生産量を誇り、経済上、軍事上さらに重要なレアアースについて、新たに輸出管理規制を実施する可能性があることだ。そこまで対立が深まってしまえば、米国は兵器の供給にすら影響を受けかねない。
2018年にトランプ前政権がはじめた対中強硬策だが、中国側はこれまで口頭で厳しい対米批判は行っても、具体的な報復措置は控えめで、最小限に留められてきた感がある。しかし、5月には米国半導体大手であるマイクロンテクノロジーの製品について、重要な情報インフラでの調達を禁止すると発表した。今回の輸出管理規制はそれに続く、さらに強力な報復措置となりそうであり、中国側の対米対抗策の強度は高まっている。
米中覇権争いは煮詰まってきた。6月にはブリンケン国務長官が訪中、7月6日から9日にかけてはイエレン財務長官が訪中しており、米中協議が活発に行われてはいる。だが、今のところ緊張緩和につながるような具体的な成果は見られない。
投資家からすれば、米中間の覇権争いが激しさを増すことで、国際金融市場、中でも米国債市場にまで影響が及ぶようなことのないよう祈るばかりだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」も発信中。